AIが引き起こす、ECビジネスのパラダイムシフト|Shopify Summit 2025レポート

AIが引き起こす、ECビジネスのパラダイムシフト|Shopify Summit 2025レポート

2025年5月29日と30日の2日間にわたって、Shopifyが主催するイベント「Shopify Summit 2025」が、カナダ・トロントで開催されました。
ShopifyによるEC構築・運用サービスの「BiNDec」を提供するWEBLIFEの代表取締役 山岡義正もイベントに参加し、Shopifyの最新技術や世界各国のECビジネスに関する様々な知見を得てきました。

世界中のShopifyパートナーが集う、テクノロジー中心のリアルイベント

Shopify Summitは、Shopifyの最新技術と成長戦略が集結するイベントであり、今後のビジネス展開に重要な知見を得られる年に1度の機会です。

今回は、”Editions.dev”と題しており、エージェンシー向けのビジネスモードと、開発者向けのDEVモードの2タイプに分かれて、セッション、ラウンドテーブル、デモブースのほか、より専門的なテーマを学ぶマスタークラスなど合計50以上のプログラムが用意されていました。
さらに、イベントに参加した世界中のShopifyパートナーと、自国のEC市場について情報交換をしたりアドバイスをし合ったりと交流も盛んに行われました。
世界中のShopifyパートナーが集う年に一度のイベント

要注目!使いこなしたい7つの新機能をおさらい

Shopifyの新機能については、5月にShopify Editionsで発表されたばかりです。イベントでは、その中から7つの新機能について実践的な内容も含めてさらに深掘りしていました。

Shopify Editions2025夏について、下記の記事も併せてご覧ください。

Horizonで実現するAIによるテーマカスタマイズ

Shopifyの新デザイン基盤である「Horizon」の最大の特長は、AIを活用したブロック生成機能です。Horizonでは、ECサイトのデザインや機能をカスタマイズしたい時に、自然言語のプロンプトを入力するだけで、AIが自動的にコードを生成してくれます。
従来の開発時間を約60%も短縮できるため、開発コストの大幅な削減し、マーチャントへの提案力向上やスピーディーなプロトタイプ作成などが可能になります。

BiNDecでは、業種や目的に特化してカスタマイズパーツやアプリをセレクトしたBiNDec MODELを用意しています。HorizonのようなAIとこれまでのEC構築ノウハウを掛け合わせ、BiNDec MODELで提供するパーツの開発スピードを上げることが今後の競争優位性を確立する上で不可欠だと考えています。

Horizonで実現するAIによるテーマカスタマイズ

次世代のAIアシスタント「Sidekick」の進化

ShopifyのAIアシスタント「Sidekick」には、20の言語対応、画面認識・画像生成機能、さらにファイル生成・参照機能が追加されました。
これにより、商品登録やコレクション作成の自動化、商品画像からの自動的な商品説明文生成といった実務面のメリットがあるほか、売上データや競合分析に基づくマーケティング戦略立案といった実践例も挙げられました。

Sidekickの新機能の中で、特に注目したいのがデータ分析機能です。しかし現時点では、Sidekickに対してどのように質問すれば最も的確な回答が得られるか不明な部分も少なくありません。
そのため、BiNDecのグロース支援では、的確な分析を行えるプロンプトの提案や、分析結果に対する最終的な判断の後押しやフォローに力をいれています。

Markets機能を活用したグローバルビジネスの効率化

複数のチャネルを一元管理できるMarketsでは、サブマーケット機能を使った細かな地域設定や、複数事業体への対応(多国籍企業向け)、さらにB2B向けのマルチマーケット機能が追加されています。
例えば、これまで日本・韓国・台湾で3つの別々のECサイトを運営していたケースが、1つのECサイトで3つのサブマーケットとして管理できるようになります。

日本の企業においては、「越境」という視点で日本と別の国という切り分けでビジネスをされているのが現状です。しかし、この視点だけでは販路の拡大や長期的な運用が難しい場合も少なくありません。
WEBLIFEでは、日本を世界のターゲット国の一つとして捉えることで、より幅広い戦略を立てることが可能になると考えています。言語の壁や他国の情報不足といったハードルは、AIの活用や他国のShopifyパートナーとの連携を通じて解決していくことを目指しています。

Markets機能を活用したグローバルビジネスの効率化

Storefront Web Componentsでタッチポイントを増加

Storefront Web Componentsは、数行のコードで任意のWebサイトにShopifyのコマース機能(カート、商品、購入ボタンなど)を表示できるUIコンポーネント群です。サーバー設定は不要なうえ、Web標準技術ベースで柔軟なカスタマイズも可能です。
これまではBuy Buttonという形で、ブログメディアやコーポレートサイト、SNSに商品ページを表示して購入に繋げる流れが主でしたが、Storefront Web Componentsによって連携作業がより簡略化されます。

Buy Buttonについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。

その他の活用方法として、AIエージェントとの連携も注目したいところです。AIチャットで商品を提案してもらったら、チャット画面の中で詳細を確認したり、購入ボタンをクリックしてチェックアウトできるなど、多様なタッチポイントが増えていくでしょう。

AI時代に避けられない、SEO対策に代わるLLMO

Web検索における集客といえば、キーワード最適化や被リンクによるSEO対策が主力ですが、これからはAIに見つけてもらいやすくするLLMO(Large Language Model Optimization)というAI対策も加速すると予測されています。

LLMOは、検索アルゴリズムへの最適化(SEO)とは異なり、AIが生成する回答に対して最適な情報を提供することに焦点を当てています。コンテンツの正確性、信頼性、そしてユーザーの意図を深く理解することがLLMOでは特に重要視されます。
AIによるオンラインの購入体験がアップデートされていく中で、LLMOによるWeb集客は強化すべき点です。

Built for Shopifyの要件緩和でアプリ開発が活発に

Shopifyアプリには、「Built for Shopify」という高品質なアプリとして認定されるためのプログラムが用意されています。
このプログラムの要件が大幅に緩和され、従来の104項目から19項目へと簡素化されました。アプリ開発パートナーにとっては、審査にかかる時間の短縮や品質保証の効率化、マーケティング面での競合優位性向上が期待できます。
Built for Shopifyに認定されるとアプリストアにバッジが付く
これからBuilt for Shopify認定のアプリがさらに増えそうですが、マーチャントは、どのアプリが自社のECに合っているのか見極めることが重要です。Built for Shopifyのバッジがついているからといって安易に導入せず、構築パートナーに相談しながら、どのアプリが最適か確認するようにしましょう。

BiNDecの独自開発アプリは、日本の商習慣に合わせた設計で、高いセキュリティ性を保っています。詳しくは下記のページをご覧ください。

全世界の商品データベースを横断するShopify Catalog

Shopify Catalogは、Shopifyプラットフォーム全体の膨大な商品データベースに横断的にアクセスできる画期的なAPIで、ShopifyアプリやAIエージェントを開発する一部のパートナーが利用できます。
これによって、商品比較サイトの構築や、業界特化型マーケットプレイスの運営、パーソナライズされた商品推薦サービスの提供などが実現します。

これまでショッピングモール型のECを実現したいというニーズがありましたが、Shopify Catalogによって、ある程度の実現可能性を帯びてきたと考えられます。
マーチャントにとっては、クロスセル機会の拡大、客単価のアップ、配送の効率化、リピート率向上などに繋がるでしょう。

全世界の商品データベースを横断するShopify Catalog

AI時代のコマース基盤となりうる、ストアフロントMCP

ストアフロントMCP(Model Context Protocol)は、AI時代のコマースにおける基盤技術として注目されています。ストアフロントや顧客アカウント用のMCPツールを提供し、AIエージェントとのシームレスな連携やショッピングエージェントの簡単な構築を可能にします。
具体的な活用例としては、AIエージェントとの自然言語での対話による商品検索、過去のやり取りや購入情報の蓄積、それらを基にパーソナライズされた購入体験などが挙げられます。

顧客が商品を「探す手間」が「教えてもらう」という形に変わり、時間が短縮されるだけでなく、提案の精度も向上していくでしょう。
この変化のスピードに対応し、技術のキャッチアップをいち早く行うことが、市場での優位性を確保する上で不可欠であり、CVR(コンバージョン率)、客単価、LTV(顧客生涯価値)の改善に直結していくと考えられます。

対話型で購買行動を促すカンバセーショナルコマースについては下記の記事をご覧ください。

Shopify POSで実店舗とECの統合が加速

実店舗向けPOSシステムであるShopify POSは、オンライン・オフラインを融合した顧客体験の要となります。北米・ヨーロッパを中心にShopifyマーチャントの50%以上が導入しています。

Shopify POSは製品からプラットフォームへ

従来のShopify POSは利用できるAPIも限定的でしたが、豊富な開発ツールが提供され、API機能が劇的に拡大するなど、戦略的な大転換を遂げています。

例えば、新しいPrint APIの登場により使い慣れたインターフェースで印刷設定ができたり、カート更新や注文詳細などのイベントターゲット拡張、さらにボックス、印刷プレビュー、SQL連携といった新コンポーネントも追加されています。
これにより、開発期間は60〜80%短縮され、カスタマイズ性は10倍向上、実装コストは50〜70%削減されると見込まれています。

Shopify POSは製品からプラットフォームへ

Shopify POSによるマルチチャネルプラットフォームの実現

Shopify POSは単なる製品ではなく、Shopify全体のプラットフォームの一部として進化しており、マルチチャネルプラットフォームの基盤を強化していると言えるでしょう。
ただし、日本ではShopify POSと連携可能な決済端末が利用できないため、現状は別のPOSシステムとの使い分けが必要です。
日本でも、オンライン・オンラインの境界なくShopifyというプラットフォームを軸に様々なビジネスが動き、成果が上がる環境になっていくことに期待が高まります。

Shopify POSについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。

二極化していくECビジネスの新時代

2025年からのEC業界についてのセッションの中で、これからは「Smart Stagingを活用する先進企業」と「従来手法に固執する企業」の2つに分かれるというトピックがありました。
Smart Stagingとは、システムによる自動化や運用フローの標準化プロセスに注力することで、高効率・低リスクで成長していくことを指します。属人的なプロセスから脱却できず、成長が制限されてしまう企業と比べると、市場での優位性において圧倒的な差がつくでしょう。

AI時代の勝者になるための戦略指針

ShopifyのCEO トビー・リュトケ氏は、「富裕層が今日お金を払っていることは、明日誰もが欲しがるものになる」と述べ、パーソナルな購入体験や高度なカスタマイゼーションを、AI技術によって一般消費者に提供することが、次世代コマースの勝利の鍵となると強調しました。
AIファーストの時代には、以下のような戦略的指針が不可欠です。

  • 「失敗前提」で進める姿勢
  • Shopifyプラットフォームの力を最大活用
  • 顧客価値の再定義

ShopifyのCEO トビー・リュトケ氏
小さく始めて早く失敗し、素早く改善していくことで、完璧を目指すのではなく継続的な改善が成功につながります。そして、Shopifyの新しいAPIやツールを積極的に導入し、コミュニティとの協力を深めることで、プラットフォームと共に成長できます。
最後の「顧客価値の再定義」とは、AIによってこれまで不可能だった価値を提供し、パーソナライゼーションをマスマーケット化することを意味します。AIができることはAIに任せ、人間は戦略立案、創造性、顧客との関係構築といった高付加価値業務に集中することが必要になってくるでしょう。

AI活用によって飛躍的に売上成長している企業が世界中で生まれ、活用できていない企業は取り残されつつあります。日本でも例外ではなく、これから国内需要が先細りしていく中で、あらゆる業務においてAI活用は必須です。トビー氏が提唱するように、まずは失敗前提で進める姿勢のもとAI活用に慣れ、スキルをアップデートしておくことが将来的な成功となる第一歩です。

APAC市場の需要を勝ち取るには先手必勝

アジア太平洋(APAC)地域は、世界の人口の60%、EC取引の50%を占める、Shopifyにとって非常に重要な市場です。言語や通貨、文化も多岐にわたりますが、中間層の急拡大とデジタルネイティブ世代の増加により、EC需要が爆発的に増加しています。
2025年以降、APAC地域でのShopifyのECは10兆円規模の市場に成長する可能性があり、この市場で早期に参入した企業が圧倒的な競争優位性を確立できる最後のチャンスとなると言われています。

BiNDecでもアジア圏に向けた越境ECを数多く支援していますが、日本独特の「越境」という概念に留まらず、「クロスボーダーが当たり前」という視点で戦略を練っていく必要があると考えています。各地域の特性を深く理解し、現地パートナーと密接に協業していくことが成功。
APAC各国の特徴。日本は世界第3位のEC市場ではあるが、レガシーなシステムを使用する企業が多い

パートナーが主導する成長戦略への大転換

Shopifyのパートナーエコシステムは、従来の「協業」から「パートナーが主導する成長戦略」へと大きく転換しています。これまでShopifyパートナー同士の連携体制は存在していましたが、それだけではShopifyの市場拡大スピードについていくことは難しいと認識されています。
今回のイベントでは、Plus Development Storesの導入により、大規模案件の提案から販売、管理までをパートナー独自で行えるようになったり、インセンティブも大幅に向上するなど、パートナーにとっての収益機会が劇的に拡大することも発表されました。

スピーディな市場の変化に柔軟に対応できるEC構築プランをBiNDec MODELで実現し、世界各国のパートナーとも競争することで、双方が成長しAPACにおける市場拡大の速度を上げていけると考えています。

最新のナレッジでECビジネスの一歩先を描く

今回のShopify Summit 2025では、AI統合によるコマースの革新とパートナーエコシステムの劇的な進化が明確に示されました。
Shopify PremierパートナーであるWEBLIFEは、このAIファーストへのパラダイムシフトを、AI活用とパーソナライゼーションへの重点投資の好機と捉え、新たな競争優位性を確立していきます。さらに、イベントで得た多くの知見をベースに、中小規模から大規模のビジネスに向けた最適なEC構築・運用を支援します。
ShopifyでのEC構築や運用に関してお悩みの方は、気軽にお問合せください。

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POINT

  • HorizonやSidekick、MCPなどAI活用の機能が進化。AIを軸にした新たな集客戦略が不可欠に
  • これからは、従来のやり方に固執しないSmart Stagingな企業が成長する
  • APAC市場は今後かなり伸びる。早期に参入した企業が競争優位性を確立する