越境ECで日本ブランドの価値を倍増する、Shopifyの活用事例とマーケティング施策

越境ECで日本ブランドの価値を倍増する、Shopifyの活用事例とマーケティング施策

2024年10月24日(木)、京都市中京区のQUESTION(クエスチョン)ビルにて、「Ship&co Ecommerce Connect 2024」が開催されました。
このイベントは、国内外のShopifyパートナーやセラー、EC業界・配送業界のエキスパート約200名が一堂に会して最新のECトレンドや戦略を共有する場であり、日本のShopify Plusパートナーや海外の人気アプリ開発者など、業界をリードする専門家が多数登壇しました。今回は、WEBLIFEの代表取締役である山岡とフランス、マレーシアのShopifyパートナー達とのセッションをはじめ、越境ECの事例や海外のEC市場に関するトピックをレポートします。

ShopifyのECサイトでの顧客体験をパーソナライズすることのメリットについて語るセッションは下記の記事をご覧ください。

米Shopifyの社長からも日本への期待のメッセージ

イベントは、人気のShopifyアプリShip&coの開発・提供している株式会社BERTRANDの代表で、ベルトラン・トマ氏のオープニングキーノートセッションから始まりました。
トマ氏は、Shopifyのサービスがまだ正式リリース前のβ版だった2006年から利用しています。日本の弁当箱を世界に販売しているBento&coも経営しており、そこでのEC運用におけるニーズがきっかけで、出荷管理システムを発展させた国内外向けの送り状発行アプリ「Ship&co」を提供するようになった経緯があります。

オープニングセッションでは、トマ氏がそのような自社の歴史をはじめ、日本国内向けのShopifyのECサイトが今年になって増加していることに触れ、カナダのShopify本社から社長のハーレー・フィンケルスタイン氏のビデオメッセージも紹介されました。
写真左=今回のイベントの主催者であるベルトラン・トマ氏 / 写真右=カナダからメッセージを寄せた、米Shopify社長のハーレー・フィンケルスタイン氏
同氏は、Shopifyの目標がコマースをよりよいものにしていくことにある点を強調し、世界中の有名ブランドも信頼を寄せて活用していると説明されました。Shopifyを利用すれば、日本の商品も最小限の労力でグローバルに販売することが可能であると語り、今回のイベントを実現した主催者、パートナー、スポンサー、参加者への感謝の意を表して話を締めくくりました。

フランスとマレーシアのShopifyパートナーから見た越境EC事情

全部で2トラック、13セッションが行われた中で、WEBLIFE CEOの山岡は、モデレーターとして1つ、スピーカーとして1つ、計2つのセッションを担当しました。まずモデレーターとして参加した「世界のShopifyパートナー対談:グローバルECの成功事例」の内容をご紹介します。

このセッションでは、Shopifyパートナーとして、フランスのStudio Zeranceの共同設立者のコナン・ポル氏と、マレーシアのMeekco.AsiaのCEOであるカー・ヒン氏が登壇。それぞれのお国事情にも触れながら、山岡の質問に答える形で貴重なインサイトを共有していただきました。

フランスにおける日本ブランドの勝ち筋とは?

冒頭のポル氏のプレゼンテーションでは、フランスでのShopifyエコシステムの成長についてのインサイトが共有されました。
彼は2016年にフランスで最初のShopifyエージェンシーであるStudio Zeranceを共同設立し、8年間で3000ものShopifyのECサイトを支援するフランス最大のShopifyパートナーへと成長させたそうです。現在は、Axome社と合併し、Shopifyと他のプラットフォームも用いたECコンサルティングを提供しています。

彼はブランドのデジタル化の難しさについて触れ、従来の小売業からの移行には、従業員の意識変革が不可欠だと述べました。特に強調したのは、デジタル化の成功の鍵が、Shopifyの哲学に合わせた運用と教育にあるという点です。また、Shopifyの浸透に伴い、フランス市場では日本製品の認知度が高く、特に高品質な製品はブランド価値が重視されるため、日本ブランドにとって好機だとも述べました。
ポル氏は、フランスとEUのEC取引の40%がShopify上で行われ、特に新参入セラーの7割がShopifyを選んでいるなどのインサイトを披露/Photo by Ship&co - Fred Mery
さらにポル氏の予想では、今後のECのトレンドとして、マーケットプレイスやゲームとの統合が進み、ShopifyがERPやPOSといったバックオフィス機能を強化し、オムニチャネルの体験が広がるとのことです。
そして、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用したエンゲージメントの向上や、コンバージョン率改善のための最適化ツールの重要性も指摘し、こうした施策を試みることで、日本ブランドにとっても大きなビジネスチャンスがあると指摘しました。

UGCについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。

消費の伸び率が注目されている東南アジアでの成功の鍵

続くヒン氏のプレゼンテーションのテーマは、「アジア市場におけるデジタルトランスフォーメーションと越境ECの戦略について」でした。彼が率いるMeekco.Asiaは、マレーシアとシンガポールを拠点に、小売事業者がオンラインとオフラインを融合した新たなビジネスモデルを構築するためのコンサルティングをしています。

特に、EC領域の成長支援を強化するうえでは、各国ごとの消費行動や文化に合わせた戦略的アプローチが求められると述べました。
ヒン氏は、東南アジア市場が持つポテンシャルに着目して、市場規模が大きく消費の伸び率が高いことをデータで示しました。彼の提案する市場参入戦略では、まず隣接市場から開始し、文化や言語の特性に応じたローカライズを施すことの重要性が強調されています。支払い方法についても地域ごとの特性を理解することが不可欠であり、現地に適した決済手段を提供することでコンバージョン率の向上が期待できると述べました。
ヒン氏は、東南アジア全体の市場規模がアメリカよりも大きく、また、実質的なGDPの年間成長率が世界で最も著しい地域であることなどに言及/Photo by Ship&co - Fred Mery
さらに、彼はインフルエンサーマーケティングやSNSを通じたブランドの認知向上を図ることも推奨しています。小規模の試験販売を通じて市場の反応を確認し、消費者の好みや購買行動を分析することで、より効果的なプロモーション施策を展開することが可能になるとのことです。
ヒン氏は「テストと学び」を繰り返すことの重要性に言及し、小売ビジネスのデジタル化の成功には、データの活用と消費者のニーズを満たす対応力が鍵であると結論付けました。

ヨーロッパ・東南アジアのEC市場トレンドを一問一答

セッションの後半は、山岡の質問にポル氏とヒン氏が答える形で進行し、以下に、一問一答形式でまとめたものを掲載します。

コロナ禍の前後で、EC市場にはどのような変化がありましたか?

ポル氏:コロナ禍でヨーロッパではShopifyの利用率が加速しました。多くのブランドがShopifyの強力なマーケティングツールを活用し、個別の顧客体験を提供するようになったのです。Shopifyのデータを基にして、メールマーケティングツールのKlaviyoによってパーソナライズされたコンテンツが、より深いエンゲージメントを生み出しています。

ヒン氏:同じく東南アジアでもECの普及が急速に進みました。特に高齢者層もオンラインショッピングを利用し始め、ECサイトのニーズが大幅に増加したのです。その後もオンラインチャネルの重要性は変わらず、ブランド認知や顧客ロイヤリティを高めるためにも投資を続けるべきと考えています。

多くのShopifyマーチャントに利用されているメールマーケティングツールのKlaviyo

オンラインとオフラインの統合における戦略について教えてください。

ポル氏:オンラインとオフラインのデータを統合するにはShopifyが最適です。Shopifyを基盤とし、POSやERPなどのツールと連携させることで、シームレスなオムニチャネル体験が実現します。

ヒン氏:シンガポールではShopify POSが使えますが、マレーシアでは日本と同様にハードウェアの制限があります。そこで、Shopifyデータを活用し、顧客ロイヤリティのプログラムを実施して足りない情報を補うことで、オンラインとオフラインの体験を統合しています。

Shopify POSについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。

日本ブランドがグローバル市場で信頼を得るためにすべきことは何でしょうか?

ポル氏:日本ブランドは、まず現地の文化理解が重要です。フランス市場では日本製品は高品質なことで知られているため、ブランドとしても、その点を強調したイメージを打ち出すとよいでしょう。
また、フランス向けの優れた翻訳も重要で、日本ブランドも適切なフランス語を使うことで信頼を得やすくなります。フランス人は英語が苦手なため、AIツールで得られた精度の高い翻訳結果を、サポートや商品説明の文書にも反映させることが必要です。

ヒン氏:東南アジアでは『メイド・イン・ジャパン』が品質の証とされ、高価格で販売されています。日本製であることをしっかり打ち出すことで、消費者からの信頼度が上がります。
一方で、チェックアウトプロセスを簡略化したうえで、購入に踏み切らせる信頼感を与えることも必要です。返品ポリシーの明確化やユーザー生成コンテンツの掲載も有効で、消費者からの信頼を得るために重要なポイントとなるでしょう。
3人の登壇者は、左からMeekco.Asia CEOのカー・ヒン氏、Studio Zerance 共同設立者のコナン・ポル氏、WEBLIFE CEOの山岡義正

最後に、新しい市場におけるテスト販売と学びの方法についてはどう考えていますか?

ポル氏:今は、エージェンシーやAIツール、輸送手段が充実しているため、新しい市場への参入とテスト販売を容易に行えます。学びながら少しずつ最適化していくのがよいでしょう。

ヒン氏:小規模のチームで市場テストを行い、反応を見ながら戦略を調整することを推奨します。失敗から学ぶことで、新たな市場での成功率は上がるはずです。

越境ECの当事者たちが語る成功の秘訣

後半は、他のセッションで語られた内容の中から、特にECサイトの売り上げアップにつながるような情報をご紹介していきます。

越境ECにおけるShopifyの9つのメリット

「越境EC最新トレンド」というセッションを担当した株式会社飛躍CEOの明石健夫氏は、プレゼンテーションの中で、ECプラットフォームにShopifyを利用する以下の9つのメリットを挙げました。

  1. 多言語ECサイトを低価格で構築・運用できる
  2. Shop Pay のグローバルユーザー数がローンチから3年程度で1億人に成長
  3. 独自のCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)によって、どの国からアクセスしても快適にサイトが表示される
  4. アプリエコシステムにより、SNSとの連携機能などをノーメンテ、ほぼノー開発コストで迅速に実装できる
  5. ID連携による経済圏の構築、OMO戦略、ヘッドレスコマース、グローバル展開などを含めて、長期的に次世代ECに進化させていくことがサイトリプレイスなしで可能
  6. 世界中にShopifyベンダーや利用者がいることで、海外でのリソース確保と、その横展開がスムーズに行える
  7. デベロッパーフレンドリーなアーキテクチャーであるため、エンジニアリソースを確保しやすい
  8. 更新頻度が高いコンテンツをノーコードでの編集可能
  9. Shopify自体が素晴らしい世界観を持っている

すでにShopifyで越境ECビジネスをされている方は、すでに実感されていると思いますが、まさにグローバルスタンダードなShopifyを選ぶことが、越境ECを成功に導く第一歩だといえるでしょう。
9つの理由を挙げて、EC事業者はShopifyを選ぶべきであると力説した(株)飛躍の明石氏/Photo by Ship&co - Fred Mery

適切なコンテンツによって業務効率化を促進

東京・日本橋に拠点を置く株式会社マイクロボード・テクノロジーは、レーザーカッターや3Dプリンター、3Dスキャナーを輸入販売しています。ECサイトでは製品情報や加工材料、ショールーム案内、ケーススタディ、サポート情報を提供していますが、同社のマーケティングスペシャリストの鶴 健太郎氏は、2種類のコンテンツを掲載したことで、ページビューやセッション数が顕著に増加したことを報告しました。
テクニカルコンテンツとお役立ちコンテンツの効果について話す(株)マイクロボード・テクノロジーの鶴氏

それは、製品の使用方法やトラブルシューティング、メンテナンス手順などのテクニカルコンテンツと、初心者向けのガイドのようなお役立ちコンテンツです。これらのコンテンツを加えたことで、顧客は問題を自己解決しやすくなり、問い合わせ数が減少、顧客サポートが効率化したそうです。また、SEO効果も高まって製品ページの検索順位が上昇し、サイト流入が増加したとのことでした。

各国に最適な決済手段の重要性

越境ECでは、現地通貨による決済処理も避けて通れない課題です。文化的な違いから、キャッシュレスの代引きが標準的な決済方法となっている国もあります。
決済代行サービスKOMOJUを運営する株式会社DEGICAの加藤氏は、KOMOJUが地域ごとにポピュラーな決済方法を網羅していることを紹介しました。
国で人気の決済サービスについて話す(株)DEGICAの加藤洋平氏/Photo by Ship&co - Fred Mery
ECサイトが顧客の希望する決済手段を提供していない場合、6割以上が購入をやめるとのデータも提示され、適切な決済手段がサポートされているかどうかが越境ECでも売上に大きく影響します。セキュリティの点でも、カード発行会社が提供する追加の認証ステップを通じて、カード所有者の本人確認を行う3Dセキュア2.0に準拠して、マーチャントと購入者の双方から信頼されているとのことでした。

KOMOJUのサービス内容について、詳しくは下記の記事をご覧ください。

海外で商品の価値を高めるSNSマーケティング

Wismettacフーズ株式会社は、100年以上の歴史を持つ日本食の輸出事業を中心に、北米を含む32カ国で活動する企業です。そのグループ事業責任者の斎藤義記氏が率いる新たなブランド「Ikigai Fruits」を通じて、日本の高品質な果物や野菜を世界に届けることにも取り組んでいます。
そして、アメリカ市場へ進出するにあたり、輸入規制やロジスティックスの課題に対応し、FedExやUPSと協力した配送実験を通じて効率的な供給体制を確立したとのことです。
インフルエンサーマーケティング戦略の有効性について話すWismettacフーズ株式会社の斎藤氏

「Ikigai Fruits」では、マーケティングに著名人が集まるイベントや海外のインフルエンサーを活用し、SNS上でのPRも利用して、日本の希少で高級な果物の価値を知ってもらうことに成功しました。
たとえば、YouTubeチャンネル「People vs Food」などで日本のイチゴを取り上げてもらい、高価格でありながらもその味や食感のよさが広く評価されるようになってきています。その結果、日本では1粒約33円のイチゴを、アメリカでは約682円で販売できるようになったそうです。海外市場における日本産フルーツの価値をさらに高めていこうとする情熱が感じられました。

海外での人気商品と取り扱いの注意

国際物流でおなじみのFedExは、日本支社であるFedEx Japanのナショナルセールスマネージャの岡本竹史氏が「越境EC物流と最新情報」というテーマで登壇しました。
EC事業者にとって気になるのは、越境ECでどのような商品が人気を集めているかということでしょう。岡本氏は、イーベイ・ジャパン(株)のデータを引用して、1位が「レディース アパレル&バッグ ブランド小物」、2位が「時計・パーツ&アクセサリー」、3位が「カメラレンズ&フィルター」であることなどを説明しつつ、輸送上の注意点にも言及しました。
海外で人気の日本商品のカテゴリーと注意点について話すFedEx Japanナショナルセールスマネージャーの岡本氏/Photo by Ship&co - Fred Mery
たとえば、ドローンなどは輸出に関係省庁の許可が必要であったり、国によって食品や化粧品などの輸入規制があったり、アロエやプラセンタ、ワニ革などはワシントン条約で国際取引が禁止されているというように、専門知識が求められる商材もあるということです。
扱っている商品が問題なく海外にも販売できるのかが不明な場合には、FedExのような国際物流の専門会社に相談してみるとよいでしょう。

国独自のシーズンイベントに合わせたプロモーションで売上のチャンスつかむ

最後は、岡山のデニムブランドのThe Strike Goldを手がける濱本悠路氏と、「世界へボカン」というユニークなネーミングを持つ越境ECに特化したWebマーケティング企業の代表取締役社長である徳田祐希氏による、越境ECの成功例の紹介がありました。
写真左から、英語圏向けWebマーケティングを手がける世界へボカンの徳田氏、デニムブランドThe Strike Goldの濱本氏/Photo by Ship&co - Fred Mery
ジーンズマニアには知られていても、今ひとつ海外での販売が振るわなかったThe Strike Goldの商品を対象に、毎年11月に行われるブラックフライデーとサイバーマンデーのセールを利用して固定ファンを増やすという施策がピックアップされました。アメリカでは、この期間に1人当たり900ドルの商品購入があるといわれており、一大消費イベントになっています。

海外のセレクトショップでの展開に加えて、Instagramを活用し、糸の開発から仕上げまでを一貫して行なっているThe Strike GoldのブランドストーリーをPRすることで、売り上げが10倍にアップしました。今後も、ブランドの魅力を多角的に伝えつつ、海外での認知度を向上させ、ビジネスの成長につなげていくとのことでした。

Shopify PlusパートナーによるEC構築サービスBiNDec

WEBLIFEでは、Shopifyを利用したECサイト構築から運用までサポートする「BiNDec」を提供しています。
世界各国への市場へ向けた越境ECの導入実績も豊富で、ハイレベルな技術力・知識量を認められたShopify Plusパートナーとして、中小規模から大規模のビジネスに向けた最適な運用戦略の提案も可能です。
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