ECプラットフォームであるShopifyの新機能アップデート「Shopify Editions 26年冬」が公開されました。
RenAIssanceと題された本アップデートでは、EC運用・分析・マーケティング・購入体験といったあらゆる領域がAIによって再設計されようとしています。本記事では、その中から特に注目すべき機能をピックアップして紹介し、これからのECや購入体験がどう変わっていくのかを考察します。
今回のテーマは「RenAIssance」。Shopify Editions 26年冬とは?
「Shopify Editions」は、Shopifyが年に2回発表する大型アップデートで、今後のプロダクト戦略やコマースの方向性を示す重要な発表です。2026年冬のShopify Editionsで掲げられたテーマは「RenAIssance(ルネサンス)」。再生や回帰を示す言葉の通り、今回のアップデートはECにおけるAI活用を再定義した内容となっています。
これまでのAIは、データ分析や文章生成など、人の業務を補助する「アシスタント」として使われることが一般的でした。しかしShopifyでは、AIが状況を把握し、判断し、複数のタスクを横断して実行する「エージェント」として設計されている点が大きな特徴です。
EC運用、分析、マーケティング、購入体験といった各領域がAIを軸に再構築され、運用体制やEC設計そのものを見直すきっかけとなるラインナップになっています。
Shopifyの調査が示す、EC運用におけるAI活用の転換点
Shopifyが実施したAIに関する調査では、日本の事業者の92%が「AIを導入意向である」と回答する一方で、具体的な活用分野はコンテンツ生成やデータ分析が主であり、マーケティング施策へのAI活用は29%とAPACの平均49%を大きく下回っています。(*1)
こうした状況を踏まえると、今回の「AIを前提とした設計」は、単なる機能追加ではなく、AI活用を現場に根付かせるための回答とも言えます。AI調査で浮き彫りになった“期待と現実のギャップ”を埋める取り組みとして、RenAIssanceは非常に象徴的なアップデートだと言えるでしょう。*1=Shopify、事業者のAI活用実態調査を発表
Sidekickの進化が切り拓く、AIのエージェント化
ShopifyのAIアシスタントであるSidekickは、「質問に答える存在」ではなく「自ら判断し、実行するエージェント」です。EC運用に関わる分析・設定・改善といった業務を横断的に担うことで、人手を前提としない運用スタイルが現実的なものになりつつあります。
Sidekickについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
AIと会話するだけで業務が回る運用スタイルへ
Sidekickの大きな進化は、人が一つひとつ操作してきた業務を、会話ベースでAIに任せられる点にあります。売上状況の確認、施策の実行、設定変更といった日常業務をAIとの対話で完結できるようになります。これにより、属人化しがちなEC運用を、再現性のあるプロセスへと変えていくことが可能になるでしょう。
SidekickがShopify Flowでワークフローを作成
SidekickはShopify Flowと連携し、業務自動化の設計そのものをAIが担うようになります。これまでFlowを活用するには、条件分岐やトリガー、アクションの理解が必要でしたが、Sidekickに「在庫が一定数を下回ったら通知したい」「特定条件の顧客にフォローアップしたい」といった要望を自然言語で伝えるだけで、ワークフローを自動生成できるようになります。
また、Shopify FlowはJavaScriptを活用することで、より高度なワークフローを構築することも可能です。BiNDecでは、Shopify Flowを活用した業務自動化の設計・構築支援も行っており、『どんな業務を自動化すべきか』という上流の設計から、実装・運用定着までをトータルでサポートできる点が強みです。
Shopify Flowについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
複数の工程のあるタスクも一気通貫
SidekickはTo-Doリストを作成することで作業の進捗状況を追跡し、複数の工程にまたがる業務を一連のタスクとして処理します。たとえば、人気商品のシリーズをディスカウントするキャンペーンを行いたい場合、コレクションの作成からクーポンコードを発行するところまで、To-Doリストでステップを目視しながら各設定作業をAIによって進めることができるのです。
AIが設定した項目は色などで判断できるようなUIになっているため、最後のチェック作業もスムーズに行うことができます。

プロンプトをショートカットできるSidekickスキル
Sidekickでは、よく使う指示や操作をスキルとしてショートカット化できます。スキルは、売上確認、在庫チェック、設定変更、レポート作成など、特定のタスクを素早く実行するための定型プロンプトとして機能します。
これにより、毎回同じ指示を入力する必要がなくなり、ワンクリック、もしくは短い呼び出しでSidekickに作業を任せることが可能になります。
よく使う業務フローや確認作業をスキルとして共有することで、AIの使い方を個人のスキルに依存させず、チーム全体で標準化できるため、もし担当者が変わっても同じ水準でEC運用を続けられます。
Shopify PlatinumパートナーのBiNDecでは、ECの運用担当者がすぐ使えるプロンプト集の作成など、現場にAI活用を定着させるための支援も行なっています。AIを上手く活用することで、人の思考や判断が必要となるコアな業務に集中できるようになるのです。
デザイン修正も指示と会話ですぐ形になる
Sidekickはサイトデザインの面でも有用で、デザインの修正やレイアウト調整を会話ベースで進められるようになります。これまでテーマエディタやコード編集が必要だった作業も、「このセクションの余白を広げたい」「CTAボタンを目立たせたい」といった意図を言葉で伝えるだけで反映できるのが特徴です。
単純な色変更や文言修正だけでなく、コンバージョンを意識した配置変更なども含めて提案・反映できるため、試行錯誤のスピードが大きく向上します。
また、会話形式で修正を進められるため、実際の見た目を確認しながら、その場で微調整を重ねられる点も大きなメリットです。これにより、簡単な修正作業なら内製で改善を完結できるケースも増えていくでしょう。
一方で、ブランドの世界観を表現する本格的なデザインや、コンバージョンを最大化するUX設計には、専門的な知見が欠かせません。BiNDecでは、AIでカバーできる範囲と、プロが介入すべき領域を切り分けた最適な運用体制のご提案も行っています。
分析から改善まで。マーケティング施策のAI領域が強化
これまでに紹介した業務効率の改善のほか、分析・検証・改善のプロセス全体を、AIが横断的にサポートする仕組みも強化されています。個別の数値を確認して終わるのではなく、「今の状態を理解し、次に取るべきアクションまで示す」ことで、意思決定と実行をよりスムーズにつなげられるようになります。
EC全体の状態に合わせて的確にアシストするSidekick Pulse
Sidekick Pulseは、ECサイトの状況をAIが継続的に確認し、売上・顧客・在庫・運用状況などのデータをもとに、パーソナライズされたおすすめを提示する機能です。単に数値を可視化するのではなく、改善につながる施策を要約して明確化してくれる点が特徴です。
管理画面ホームに表示される「Pulseカード」から有効化でき、管理画面やSidekickの会話履歴に表示されるカードをクリックすることで、自社向けに最適化された改善提案にすぐアクセスできるようになります。
なお、Sidekick Pulseを利用するには、Shopify Network Intelligenceを有効にする必要があります。これは、年間8億人以上が利用するShopifyで蓄積されたデータを活用し、より精度の高い分析・提案を行うための仕組みです。詳しくは下記の記事をご覧ください。
RolloutsでA/Bテストの実施から分析まで完結
近日リリースされる予定のRolloutsは、新しいデザインの実装や施策の実施をスケジューリングして、CV率をA/Bテストし、視覚的なグラフでの結果確認までを一つの流れで行える機能です。
変更内容ごとのパフォーマンスを比較しながら、どの施策が成果につながっているのかを定量的に把握できるため、感覚や経験に頼らない意思決定が可能になるでしょう。テスト結果を踏まえて、そのまま本番反映へ移行できる点も、運用負荷を下げる要因と言えます。
※提供される地域やプランはまだ公開されていません
AIショッパーによる購入体験の検証アプリ、Shopify SimGym
Shopify SimGymは、人間のようなペルソナを持つAIショッパーによって、購入者の行動を事前にシミュレーションできるアプリです。
SimGymでは、ECの顧客データを学習したAIショッパーがストアフロントを回遊し、商品閲覧からカート投入、購入判断に至るまでの行動を再現します。これにより、カートへの追加率、カート金額、ナビゲーションパターンへの影響といった重要指標についてインサイトを得ることが可能です。感覚や経験に頼るのではなく、データに基づいて施策の成否を見極められる点は、大きな価値と言えるでしょう。
また、SimGymはトラフィックの多いブランドで蓄積された購入データを背景に、より現実に近いシミュレーションを行うことを目指しています。まずはAIリサーチプレビュー版として提供されるので、今後の機能拡張にも期待したいところです。

分析レポートのカスタムやセグメンテーションも自動化
分析レポートの作成や顧客セグメンテーションといった領域でも、AIによる自動化と支援が強化されています。これまで専門知識や試行錯誤が必要だった分析作業を、より直感的かつスピーディに行えるようになる点が特徴です。
欲しい切り口をそのまま形にできる、分析レポートのカスタム
Shopifyのストア分析機能では、ShopifyQLを用いたカスタムレポート作成が可能ですが、Sidekickで「何を知りたいか」を言語化するだけで、必要な分析レポートを生成することもできます。 売上やCV率といった定型指標だけでなく、「特定期間にリピートした顧客の購買傾向」など、自社のKPIに合わせた切り口でデータを確認できるため、レポート作成そのものにかかる工数を大きく削減できるでしょう。
条件設計に悩まない、顧客セグメンテーションの自動化
顧客セグメンテーションにおいても、AIの支援によって、条件設定やセグメント作成のハードルが下がりつつあります。購入履歴、行動データ、属性情報などをもとに、「どんな顧客に向けた施策を行いたいか」を起点に、セグメントを作成・更新できるようになるため、分析と施策が分断されないマーケティング運用が実現し、メール配信やキャンペーン施策にもスムーズにつなげられます。

このように、専門知識がないとなかなか手を出しづらかったマーケティング機能も、AIを介すことで自然と使いこなせるようになっています。AIで手軽に始め、事業の成長に合わせて、より高度な分析や顧客マーケティングを行いたい場合はShopifyパートナーや外部の専門ツールを導入し、さらにEC施策をスケールアップしていくと良いでしょう。
BiNDecでは、ShopifyQLを活用したカスタムレポートの設計や、MAツール / CRMツールとの連携による高度な顧客分析の支援も行っています。
AIでメール編集&SMSでも送れるShopify Messaging
Shopify Messagingは、ECに特化したメール・SMSマーケティングを1つの管理画面で完結できる公式のShopifyアプリです。メールとSMSの両方を使って顧客にリーチできるだけでなく、キャンペーンの作成・送信・効果測定までをShopify内で一元管理できる点が特徴です。
Sidekickでブランドに合ったメール・SMSを即座に作成
Shopify Messagingでは、Sidekickを活用することで、メールやSMSのコンテンツ作成・編集をAIに任せることができます。販売向けのテンプレートをベースにしながら、「このキャンペーン文面をブランドトーンに寄せたい」「CTAボタンを目立たせたい」といった指示を出すだけで、テキスト生成、デザイン調整、画像生成までをまとめて実行できます。
また、メールキャンペーンの送信先として適切な顧客セグメントを提案・作成することも可能です。
効果測定まで含めたマーケティング運用を内製化
配信後は、クリック率やコンバージョン率といった指標をもとに、顧客がどのチャネルを好んでいるかを可視化できます。Shopify Messagingは毎月10,000通まで無料、それ以上は1,000通/月につき1米ドルとなっているため、比較的安価で利用できる点もメリットです。 メール・SMS・分析・改善までを一気通貫で行えることで、外部ツールに分散しがちなマーケティング業務をシンプルに整理できるようになります。
※料金体系は地域や今後のアップデートにより変更される可能性があります
クロスメディアマーケティングをさらに強化したい場合は、Dotdigitalなどの外部ツールとの連携も選択肢になります。BiNDecでは、事業規模やマーケティング戦略に応じた最適なツール選定・移行支援も行っています。
出会い方も、買い方も、もっと自由になる購入体験の多様化
グローバルにビジネスを展開できるShopifyは、顧客との接点や購入までの体験そのものを広げるアップデートも進んでいます。ECサイト内外のさまざまな接点を通じて、顧客一人ひとりに合わせた柔軟な購買体験を提供できるのです。
AIチャットサービスでの新たなショッピング体験
Shopifyは「Shopify Agentic Storefronts」を通じて、AIチャット上で商品を探し、そのまま購入につながる新しいショッピング体験を広げています。近年、ChatGPTやCopilot、PerplexityといったAIチャットを使って情報収集や商品検討を行う消費者が増えており、こうした変化に対応するための仕組みです。
Shopify Agentic Storefrontsでは、AIチャットが回答するブランドや商品の表示方法を管理できる機能として、近日リリースが予定されています。これにより、商品がAIチャット上で適切に見つけられ、ブランドの意図に沿った形で紹介される可能性が高まります。従来の検索エンジンや広告だけでなく、AIとの会話が新たな購買導線として機能し始めている点は、大きな変化と言えるでしょう。
今後は、対応するAIチャネルがさらに追加される予定とされており、ECサイト外での「出会い方」そのものが多様化していくことが予想されます。
AIチャットサービスにブランドや商品の情報を適切に回答してもらうためにはLLMO対策も有効です。詳しくは下記の記事をご覧ください。
販売チャンスを広げるShopify Product NetworkとShop Campaigns
Shopifyは、自社EC外での販売機会を拡張する仕組みとして、Shopify Product NetworkやShop Campaignsを提供しています。日本では現時点でリリース未定ですが、新規客との「出会い方」を大きく変える可能性を持つ取り組みです。
Shop Campaignsは、Shopifyネットワークを活用した広告・販促施策の支援サービスで、ShopアプリやMeta、Googleなどのプラットフォームに広告を配信できます。
さらに、Shopify Product Networkのアプリによって、自社商品を他のShopifyのECサイト上の広告枠に表示できるようになりました。広告は、コレクションページや検索結果、サンクスページ、注文状況ページなどに表示される場合があり、広告掲載先のEC上で商品をカートに追加して、チェックアウトへ進むことが可能です。
Shop Campaignsで広告を配信できるShopアプリについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
国や地域、ビジネスモデルごとに最適な購入体験を提供
Shopifyは越境ECに強いプラットフォームとして評判があり、国や地域だけでなく、取引形態ごとに購入体験を最適化できるようになっています。今回のアップデートでは、マーケットごとにチェックアウトやお客様アカウントページ(顧客のマイページ)の設定を切り替えられる機能が加わりました。
たとえば、一般顧客にはシンプルな購入フロー、法人顧客には請求書支払いを前提としたフローを提供するためのチェックアウトページとアカウントページをエディタから直接カスタマイズできるのです。
現在は早期アクセスで限られたマーチャントにのみ提供されているようですが、複数のECサイトを管理・運用しているケースではかなり有用な機能となるでしょう。
BiNDecでは、国内向けと海外向けの両方に対応したShopify構築の実績が豊富にあります。マーケットごとの決済・配送・言語対応など、複雑になりがちな設計を整理し、運用しやすい形に落とし込むことが可能です。Shopifyで越境ECやBtoB ECを運用しているKINTOの事例も併せてご覧ください。
AI活用を前提としたECサイトの構築・運用ならBiNDecへ
今回のShopify Editionsによって、AIはもはや補助的な存在ではなく、EC運用・分析・マーケティング・購入体験の中核として組み込まれる前提になりつつあります。 だからこそ重要になるのが、「どの機能を使うか」ではなく「AIを前提にどう設計するか」という視点です。
AIによって分析・改善・施策実行が標準化される一方で、人に求められる役割は「作業」ではなく、事業や顧客に向き合う判断・設計へとシフトしていきます。そのためには、自社に合った設計思想と、それを実装・運用まで落とし込めるパートナーの存在が欠かせません。
BiNDecは、Shopify Platinumパートナーとして、AI活用を前提としたEC設計・構築・運用支援を行っています。今回の機能アップデートは、成果につながるECの進化として活かしたい企業にとっては大きな転換点になるはずです。
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