6月11日〜13日の3日間に渡り開催されたリテールイベントの「NRF 2024: Retail’s Big Show Asia Pacific(NRF APAC 2024)」には、Shopifyもブースやカンファレンスで出展しています。現地で得た最新情報をもとに、WEBLIFEが注目しているトピックをご紹介します。
出展者・参加者と直接交流したからこそわかる、リアル体験トピックについては下記の記事をご覧ください。
世界最大級のリテールイベント「NRF Retail’s Big Show」とは?
NRF Retail’s Big Showとは、全米小売業協会(National Retail Federation)が主催する世界最大級のリテールイベントです。小売、テクノロジー、ビジネスのリーダーが講演者として名を連ね、ソリューションの展示や同業者とのネットワーキングのために世界中から参加者が訪れます。
アジア初のイベント開催地はシンガポール
NRF Retail’s Big Showは毎年1月ニューヨークで開催されるのが恒例ですが、2024年はそれに加えて、世界的大手のイベント会社であるComexposiumと提携したNRF 2024: Retail’s Big Show Asia Pacificが行われました。
開催地はアジアのハブとして物流、金融、ビジネスを牽引しているシンガポールが選ばれ、6,000人以上が参加しました。
NRF APAC 2024のテーマは「成功への近道」
Fast Track Your Success(成功への近道)をテーマに掲げた本イベントでは、Shopify、AWS、Google、SAPなど238社以上が出展しており、カンファレンスプログラムには、日本からも多数の小売企業やサービスのキーパーソンが登壇しました。
Shopify Plusパートナーとして350サイト以上のECを支援しているWEBLIFEの代表 山岡もイベント参加し、小売業界のトレンドリサーチや意見交換を行いました。今回は、カンファレンスでトレンドとなっていた、顧客体験の考え方についてフォーカスしてレポートします。
人とAIの適材適所で実現する、顧客が本当に求めている購入体験
最近では様々なビジネスに自動生成AIが浸透してきており、ECサイトでも実店舗でもAIを活用した新しいサービスやツールの導入が進んでいます。しかし、AIを高性能化するだけでは顧客にとって最適な購入体験を作り出すことはできません。
人にしか担えないコミュニケーションの重要性について多くのセッションで語られていました。
価値のあるショッピングは商品と体験がセット
180年以上の歴史を持つラグジュアリーブランド「エルメス」のアメリカのCIOであるKen Feyder氏は、「売上の83%は、顧客が店舗で体験したことによって左右される」「高級品を買う人の73%は自分の好みに合わせてパーソナライズされた体験を求めている」と発言しています。
エルメスの店舗では顧客のブランドの伝統を体験し、理解を深めてもらうために丁寧な接客を受けられます。その体験をAIに置き換えるのではなく、強化するためにAIを活用するということを「Augmented Humanity Creativity(拡張された人間性と創造性)」と呼んでいるそうです。
シャンパン、コニャック、ワインなど26の高級酒メゾンを展開するLVMHグループのLaurent Boidevezi氏は、「私たちはボトルを売るビジネスをしているのではなく、体験を売るビジネスをしている」と語りました。
ビジネスの軸としては、百貨店での小売よりもレストランやバーで消費される卸売がメインです。しかし、小売業を利用してブランドを次のレベルに引き上げることを目的として、顧客ロイヤルティを高めるための体験にも注力しています。
空港やショッピングモールのブティックでモエ ヘネシーのお酒を楽しめるスポットを作り、そこで得られる特別な体験が、長期的に自社ブランドの知名度と売上を高めることに繋がっています。
ポップアップストアを活用した顧客体験の事例について、下記の記事も併せてご覧ください。
人にしかできないコミュニケーションにコストをかける
顧客にとって、商品を購入することにおいての最終的な目標は、それを消費することで得られる体験にあります。上記のような体験を提供するビジネスは、1on1でコミュニケーションをしながら価値観を共有できる「人」あってのものであり、AIが取って代わることはないでしょう。
データ分析や商品管理などの管理業務は、これから益々発展してくAIやシステムに任せ、人的コストはコミュニケーションを必要とする分野に棲み分けることがビジネスをより発展させていく鍵となります。
顧客の声と行動でアップデートするマスブランド
自社の顧客がどのような体験を求めているかはビジネスの性質によって異なります。上記はラグジュアリーブランドにおける顧客体験の事例であり、それが全てのビジネスに当てはまるわけではありません。
次は対照的なマスブランドにおいて、どうやって自社に最適な顧客体験を作り上げているのかをご紹介します。
改善とイノベーションを繰り返して顧客ロイヤルティを上げたドミノ・ピザ
NRF APAC2024のカンファレンスにおいて、トップバッターを務めたドミノ・ピザのオープニング基調講演は、どの事業者にとっても有益で興味深いものでした。
ドミノ・ピザ CDOのChristopher Thomas Moore氏が登壇し、DXによるリブランディングから顧客ロイヤルティ向上につながるプロモーション戦略まで網羅的にピックアップされました。
顧客のニーズに対してユニークに対応
ドミノ・ピザの顧客のニーズを満たすイノベーションの例として、注文したピザの配達状況・道順・到着までの予定時間が、リアルタイムで追跡できるドミノ・ピザ・トラッカーが挙げられました。また、商品やサービスに対する厳しいフィードバックに対しても、SNSでオープンに共有したことが顧客から好意的に受け取られ、そこからピザのレシピやデリバリー中の温度管理方法などを改善しています。
さらに、「注文のしやすさ」にも注力し、Google Map上でピンを立てた場所にピザを配達する、ピンポイントデリバリーによってビーチやバス停など「今、いる場所」で商品を受け取ることができるサービスを実施しています。
また、AppleのCarPlayと連携したオーダーシステムでは、車内でピザを注文してそのまま店舗前に車を着ければ、指定した席やトランクに店員がピザを置いてくれるため、ドライブスルーの列に並ぶストレスを解消しました。
Thomas Moore氏は、こういったイノベーションは必ずしも新しいものである必要はないとしています。
その事例として、1つ買うと1つ無料になるデリバリーピザの定番キャンペーンを、「Emergency Pizza」と題して、緊急事態が起こった時にピザを1枚買うともう1枚が無料になるというコンセプトにリニューアルしました。そのユニークさが話題を呼び、キャンペーンを利用できるDomino’s Rewardsの会員数を200万人増加させる結果につながりました。
イノベーションもまずはスモールスタート
このようにブランドに必要とされていることを拾い上げ、サービスに反映するためには、企業の経営陣や取締役だけでなくフランチャイズ店舗の現場の理解も必要不可欠です。
Thomas Moore氏は、そのために小規模な施策からスタートしてデータを蓄積し、その結果とプロセスを伝え、ガバナンスを確立することで信頼を得て、イノベーションを成し得ていると語りました。
顧客を中心に据えて商品とサービスを作るユニクロの戦略
日本のファストファッションブランドであるユニクロのセッションでは、「LifeWear」というコンセプトを掲げ、顧客を中心として企画、生産、販売の領域が循環するサプライチェーンの考え方が紹介されました。
ユニクロの商品構成はリーズナブルでベーシックなアイテムが中心ですが、年間3000万件以上の商品に対するフィードバックを受け取っており、シンプルなワイシャツでも、そのフィードバックを基に素材・パターン・縫製などを毎年改善しています。
現在、全世界で2196店舗を構えるユニクロですが、そのオペレーションは均一であり、どの店舗でも共通した「ユニクロの服を買う体験」をすることができるように設計されています。
商品を購入する際に、レジに並んで決済をすることよりも自分に合った商品を選ぶことに時間を使ってもらうために、ユニクロのセルフレジでは、RFIDの技術を用いたICタグによってカート内の商品情報を瞬時に読み取り、スピーディにチェックアウトが完了します。
ECサイトにおいても、配送時間を短縮するために倉庫業務の自動化やシステムへ約541億円を投資し、拠点も増やすことで、顧客のストレスを無くすことへ貢献しています。
顧客体験作りの起点となるハイパー・パーソナライゼーション
いくつかのブランドにおける顧客体験の作り方について紹介してきましたが、そのアイディアの起点となるのはいずれも「顧客の声や行動」です。
顧客の求めるものを正確に把握するためには、カゴ落ちメールや閲覧履歴によるターゲティング広告などの機械的なパーソナライゼーションではなく、「顧客の行動データをリアルタイムで収集して過去のデータと照らし合わせ、今のニーズに応じて商品や体験をカスタマイズする」というハイパー・パーソナライゼーションが必要とされてきています。
ハイパー・パーソナライゼーションには、膨大なデータと分析が必要であり、それこそAIの力が発揮される領域です。AIは過去のデータから顧客が次に興味を持ちそうな商品や情報を予測することができます。
その予測をベースに、本当に求められている顧客体験を作り上げることで、顧客一人ひとりのエンゲージメントを高めることができます。
EC運用における自動生成AIの活用アイディアについては下記の記事をご覧ください。
コミュニケーションファーストの顧客体験を重視するShopifyのセッション
世界175カ国でシェアを広げているECプラットフォームのShopifyのセッションでは、ShopifyのSEA/インド担当カントリーヘッド兼ディレクター Bharati Balakrishnan氏がモデレーターを務め、Shopifyのパートナーやマーチャントを交えて、ユニファイドコマースを軸とした、テクノロジーと顧客体験をテーマにしていました。
ゲストは、Ernst&Youngのコンサルティングパートナー Andrew Tan氏、Ogilvy Oneのコマース ヴァイスプレジデントのTim Till氏、Ankerの DTCディレクター兼開発リーダー Connor Zhai氏、Allies of SkinのCEO Nicolas Travis氏の4名です。
実店舗とECでの体験について、カンバセーショナルコマースと表現し、顧客の満足度を上げるためには会話型の接客でニーズを見つけることが大切だということが語られました。また、その顧客体験によって、どのくらい信頼性を獲得できるかも今後のリピート購入に影響する重要事項だとしています。
海外ではインフルエンサーによるプロモーションが購入につながる比重がとても高いことが特徴的ですが、そのインフルエンサーも約30%がZ世代となっているそうです。居住地や性別が同じ属性の顧客でも、世代によって商品やブランドに触れるタッチポイントは異なります。ターゲットをより細かく分析し、それぞれに最適なアプローチを起こすことが顧客体験のスタート地点となります。
コミュニケーションファーストともいえる会話型の顧客体験を実現するために、商品管理や配送などの作業タスクは、AIなども存分に活用し、9割自動化を目指すとされています。
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