ECプラットフォームのShopifyは生成AIの利用を積極的に推し進めています。独自の生成AI機能であるShopify MagicやSidekickの継続的な改良を行っており、2024年の新機能発表イベントでも4つの機能強化が含まれていました。
今回は、このShopifyの生成AIに加えて、利用して日々の業務の効率化を図る生成AIサービスを4つご紹介しましょう。
Shopify Editions2024夏で発表されたその他の新機能についてはこちらの記事をご覧ください。
一段と強化されるShopify AIと活用メリット
生成AIは他のビジネス分野ともども、ECサイト運営においても欠かせない存在となっています。もちろんShopifyも純正の生成AIサービスの充実を進め、「Shopify Magic」と「Sidekick」の2つの柱でECサイト運営者をサポートしてきました。
ここで少しおさらいをしておくと、Shopify Magicは、ECサイトの構築や運営に関わる具体的な作業を代行するAI機能であるのに対して、SidekickはECサイト運営者の相談にのってくれるアシスタント的な位置付けです。
それまでなかった価値を提供する新技術なので、当初のリリースは英語での対応から慎重に行われてきたものの、最近では日本語で利用できる場面も増えてきました。そして、どちらも Shopify Editions2024 の中で、さらに有用性を高める以下の4つのアップデートを受けています。
なお、Shopify MagicとSidekickの基本的な解説はこちらの記事をご覧ください。
①顧客からの問い合わせの対応スピードとコストを軽減
顧客からの疑問をすみやかに解決することはECビジネスにとって重要な課題です。Sidekickで近々サポートされる返信提案では、ECサイトのビジネス内容を理解したAIが顧客の質問内容を分析し、適切な回答を用意してくれるようになるので、担当者は誤りがないが内容を確認のうえ、送信するだけで済むようになります。
②顧客の属性や行動履歴をもとに正しくセグメント分け
Shopifyには、ECサイトのデータベースにアクセスして必要なデータを取得し、フィルター処理や分析クエリ(問い合わせ)を作成するためのクエリ言語として「ShopifyQLコード」が用意されています。ShopifyQLコードは必要要件を簡潔に記すことができますが、専門知識のある担当者でないと、そのコードの正しさを判断することが難しい面がありました。
しかし、生成AIがコードの内容を平易な自然言語に変換してくれるようになりました。ターゲットごとに異なるセールの情報を送る場合などのミスを防ぎ、業務をよりスムーズに行えるようになります。
③商品を自動でカテゴライズして検索精度をアップ
商品の適切なカテゴリー設定や属性の付加は、顧客がたくさんの商品の中から好みや目的に合ったものを検索して見つけるうえで重要な役割を果たします。しかし、ECサイト側にとってみると、ビジネスの成長に伴う商品数の増加や季節ごとの商品入れ替えのたびに発生する煩雑な作業でもありました。
AIによる自動的なカテゴリー設定と属性付加は、そうした作業を大幅に削減するものであり、商品を検索されやすくするための強い味方になってくれる機能です。
④モバイル端末からでも商品画像の背景を編集
ShopifyのAI生成による商品のアレンジ画像は、Shopify Mail内などの限られた場所でのみ利用が可能でしたが、夏のアップデートにより、ECサイトの管理画面からアクセスできるすべての箇所において画像アレンジ機能を使えるようになりました。さらに、Shopifyのモバイルアプリでも同機能がサポートされ、どこからでも同機能を使える環境へと進化しています。
こうした拡張により、同じ商品の写真でも目的やターゲット層に応じて背景を変え、より有効に活用できる場面が広がっていくことでしょう。
ECサイト運営の負荷を軽減する外部AIサービスと活用法
先に説明したように、ShopifyのAIはECサイト内での構築や運営、相談役として優れた能力を発揮しますが、ECの管理画面を介さない作業には対応していません。文字入りのイメージそのものの生成、商品プロモーション動画の作成、会議の議事録作成や、商品トレンドの分析などといった仕事がそれにあたります。
そこで、ここでは外部のAIサービスを活用して、ECサイト運営の負荷を軽減していく方法をご紹介していきます。
文字入りのイメージイラストを瞬時に生成するIdeogram
ECサイトを運用していると、セールやキャンペーンを行う際など顧客の購買意欲を高めるためのキーとなるビジュアルが必要になる場面が多いです。そのような場合は画像生成AIを利用することが浮かぶかと思いますが、同時に、キャッチコピーなどの文字を指定しても意味不明の図形の並びになったりと、うまく生成するまでには苦労を要する印象もあるのではないでしょうか。
今も大半の画像生成AIは文字が苦手ですが、Ideogramは、文字生成の性能がかなり優秀なサービスです。
無料プランでも1日あたり10回までプロンプトを入力でき、1プロンプトで4つの異なるイメージが生成されるので、合計40のイメージが得られます。ただし、そのすべての単語の綴りが正しく生成されるとは限らず、文字だけイメージが生成されることもあるため、確認が必要な点には注意しましょう。
Ideogramの使い方
- アカウントを登録
- テキストフィールドにプロンプトを入力
- Generateボタンをクリックする
使い方は上記の3ステップでとても簡単です。なお、画像内に入れ込む文字はアルファベットにしましょう。アルファベットを使う言語であれば、何語でもOKです。
時々、綴りの間違いが含まれたり文字のみのイメージになることもありますが、ほとんどの場合、下記のようなリアルでスタイリッシュなイメージを生成することが可能です。
「クロワッサンやブリオッシュのイメージに”Bon Appetit!”の文字が入ったポスターイメージを生成してください。」のようなプロンプトで生成
夏用化粧品のプロモーションを想定し、「夏のリゾートを思わせるセッティングで旅に誘うイメージを”Summer Breeze”の文字入りで生成してください。」というプロンプトで、リゾート地の景色を背景に”Summer Breeze”の文字を配してみたイメージ
なお、無料プランでは生成されたイメージを誰もが閲覧できる状態になってしまうため、秘匿性の高いイメージを生成する場合には有料プランを利用するようにしましょう。
プロモーション用動画を短時間で作成するInvideo AI
SNSでの情報発信に効果的なプロモーション用動画も、生成AIに任せてみましょう。最近では、動画生成AIも実写と見間違うような映像を作れるものまで出てきています。その中でも、ECサイトのプロモーション用動画の場合には、簡単なプロンプトからシナリオ、ナレーション、字幕を自動生成し、各シーンにマッチする実写映像とBGMをストックデータからピックアップして1本の動画にまとめてくれる、Invideo AIのようなサービスが適しています。
Invideo AIは、テーマや雰囲気、言語をプロンプトで指定し、ターゲット層やSNSの種類を選ぶだけで設定条件に合う動画を生成することが可能です。無料プランでは映像内にInvideoのロゴとストックビデオ提供元の透かしが入りますが、週あたり、合計時間が10分以下となる動画を4本まで作ってダウンロードできます。実際に生成された動画がこちらです。
Invideo AIの使い方
- テーマや雰囲気、言語をプロンプトで指定
- ターゲット層やSNSの種類を選ぶ
- 生成された動画に追加プロンプトで指示をして調整
- 編集画面でにて細かな変更を加える
どの海外製の生成AIでも起こりえますが、日本語のナレーションでは、漢字の読みを間違えたり、イントネーションが不自然な箇所が発生することがあります。
その場合には、Editボタンをクリックして、さらにEdit Scriptをクリックするとナレーションのシナリオが表示されますから、読み間違う漢字をひらがなにしてください。そして、Scene 1などの説明の言葉も余計ですから、削除してApply Changeをクリックします。
ナレーションの声は、筆者が試したところ、NarratorをクリックしてChage Speaker toから選択できるSpeaker 4が日本語に適しているように感じました。違和感があれば、シナリオを元にしてナレーションをアフレコで置き換えてもよいでしょう。
なお、対応するWebブラウザとして生成自体はSafariでも行えますが、編集時の再生にはChromeかEdgeが必要です。
会議内容を自動で要約ができるユーザーローカル社の音声議事録システム
EC運営業務は画像や動画などの制作だけではなく、企画会議など内部や外部との会議も頻発することでしょう。音声認識の機能自体は、GoogleドキュメントやWIndows 11などにも備わっていますが、どちらも議事録に特化しているわけではなく、議事録向けのサービスは有料サブスクリプションが必要だったり、無料で利用できても1回あたりの収録時間が30分程度に限られる場合があります。
そこで、ここでは月300分まで完全無料で利用できる株式会社ユーザーローカルの音声議事録システムを紹介します。
企画会議の内容を音声認識させることで、テキストファイルだけではなく、それを要約しアクションリストも作成できるうえ、会議の音声が保存されることはなく、記録されたテキストデータも削除可能な点は、セキュリティの面でも安心といえるでしょう。
個々の参加者の端末ごとに名前を割り振れるため、議事録内で誰の発言かが明確にわかることもメリットです。なお、リアルな会議でもスマートフォンを持ち寄るなどして、発言者のみがマイクをオンにすれば、議事録機能を同様に利用できます。
さらに、ユーザーローカルは声のトーンから感情分析を行う技術なども提供している企業でもあり、音声議事録システムにもリアルタイムの感情認識や重要単語のピックアップ機能がついています。参加者各自がこれらの情報を確認して発言にフィードバックすることで、会議の活性化につなげることもできるでしょう。
なお、反響音などを防ぐためにイヤフォンの着用が推奨されていますが、筆者が試した限りでは、イヤフォンなしでも高い認識精度を示しました。
ChatGPTも併せて利用することで次のアクションをよりスムーズに
ダウンロードしたテキストファイルをChatGPTに読み込ませれば、要約はもちろん、討議された全トピックの項目出しやアクションプランなどを簡単に作成して業務に活かすことができます。
ChatGPTのゼムクリップのアイコンから会議の議事録ファイルを読み込ませ、プロンプトで指示することで会議の内容をわかりやすく共有でき、実効性の高いものにすることが可能です。
「この議事録の内容を5段落で要約してください。」
「議論されたすべてのトピックを箇条書きにしてください。」
「この会議の内容からアクションリストを作ってください。」
「結論を1段落でまとめてください。」
AmazonとChatGPTの活用で業界の売れ筋データを様々な切り口で分析
これはAmazonも並行利用しているECサイトのみになりますが、Amazonの機能とChatGPTを掛け合わせることでさまざまな角度からの分析が可能になります。
使用するのは、Amazonが登録セラー向けに公開しているセラーセントラルという管理画面の「出品大学」機能からダウンロードできるデータです。「週ごとの推奨商品」は、出品数、品薄予測、最低価格、急上昇中かどうかなどの情報なども含まれています。
ChatGPTでの分析手順
実際のAmazonのデータはお見せできないため、ここではダミーデータを元にChatGPTに分析させる手順を以下に記していきます。
1.ChatGPTに簡単なプロンプトを入力
まず、ゼムクリップの形をしたアイコンからcsvファイルを読み込ませます。
そして、概要をまとめてもらうために「このデータを分析してください」というシンプルなプロンプトを入力しました。この程度の単純なプロンプトでも、表形式のデータから複数ページの概要レポートを出力できます。
2.ChatGPTに詳細な指示を伝える
簡単なプロンプトでも数ページにわたる分析結果を返してきてくれますが、それだけでは全体像がわかるだけで有用な知見は得られません。そこで、より詳細な情報をChatGPTに与えましょう。
自社で扱う場合に有利な商品を「急上昇しつつも、品薄にはなりにくく、出品者数の少ない商品を挙げてください。」というプロンプトによってリストアップしてもらいます。つまりそれは、人気が出始めているけれどもライバルが少なく、欠品する心配が少ないアイテムです。
3.更に、ChatGPTにプロンプトを入力
このようにして、元になるデータがあれば、さまざまな角度から分析して、自社のECサイトの販売戦略に活用できるのです。
ShopifyでAIを利用する際の注意点
最後に、改めてAI利用時の注意点を書いておきます。これは現在の生成AI全般に当てはまる事柄です。
著作権侵害にあたるものが生成されてがないか注意
文章、画像を問わず、既存の著作物に酷似したものを生成して商業利用することは著作権侵害にあたる可能性がありますので、避けなければなりません。これは人間の創作物の場合も同じであり、常識の範囲内で判断できるかと思います。
Shopifyの画像アレンジ機能は主に背景の生成となるため、一般的なインテリアや風景であれば問題とはなりませんが、外部のAIサービスを利用して製品名やキャラクターなどを生成する場合には、特に注意が必要です。
確信が持てなければ、ネット検索や画像検索を利用して、類似するものがないか確認するようにしてください。
誤った情報が生成される可能性がある
現状の生成AIは、いわゆるハルシネーション(妄想)の発生をゼロにすることができません。もっともらしい回答にも誤った情報が含まれていることがあるので、疑わしそうな情報は、ネット検索などを利用して元情報にあたり、真偽を確かめるようにしましょう。
情報漏洩のリスクに注意する
生成AIサービスによっては、プロンプトとして入力された情報がAIの学習に利用され、他のユーザーに対する回答の中に関連する情報が含まれて出てくる可能性があります。
各ECサイトに関する情報がそのサイトのみの利用に留まるShopifyのSidekickではこうした心配はないといえますが、外部のAIサービスでプライバシー保護への言及がないものを利用する場合には、機密情報を含むプロンプトを入力しないようにしてください。
Shopifyの最新AI機能のお問い合わせや活用アドバイスもBiNDecまで
生成AIの進化は日進月歩です。今後のShopify MagicやSidekickのアップデートによって、今は、外部のAIサービスを利用するような機能も、標準で備わってくる可能性もあります。現に、Shopifyでは生成AIに限らず年間200以上の機能アップデートが行われています。
しかし、そのときまで待つのではなく、利用できるサービスは積極的に活用して、EC業務におけるAIマインド、つまり、「ごく普通にAIを活用して業務の単純化や効率化を図る姿勢」を早めに育んでおくことも大切といえるでしょう。
Shopify Plusパートナーとして豊富な経験と実績を持つBiNDecでは、Shopify AIの活用方法やお悩み解決を含めて、最新のECサイトを構築するためのご相談を承っています。ECサイトの新規立ち上げはもちろん、リプレースも、BiNDecにお任せください。
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