AIを使う企業から、AIと働く企業へ。Shopifyが示した次の競争優位|Shopify DotDev 2026レポート

AIを使う企業から、AIと働く企業へ。Shopifyが示した次の競争優位|Shopify DotDev 2026レポート

この記事でわかること

  • SidekickがApp Extensionsで外部アプリのデータ・機能を直接扱えるようになった
  • 実行前に必ずEC事業者が承認する仕組みで、AIと人の役割分担が保たれている
  • AI導入の成否を分けるのは技術力ではなく、経験を蓄積するプロセス設計にある

2026年7月、Shopifyの公式イベント「DotDev 2026」がカナダ・トロントで開催されました。世界68か国から約2,000人のShopifyパートナーが参加し、WEBLIFE代表取締役の山岡も現地でのセッションや交流を通じて多くの示唆を得ています。

前回のレポートでは、AI経由の購入体験が急成長している実態と、AIに選ばれるECサイトをつくるための土台づくりについてお伝えしました。


今回は視点を変え、DotDev 2026や前日のパートナーデイのセッションで語られていた、AIが自分でアプリを使いこなすという新しい姿をご紹介します。

SidekickはEC事業者の「AI共同創業者」

Shopifyは、AIアシスタント「Sidekick」を、すべてのEC事業者にとってのAI共同創業者と位置づけています。ただし、Sidekickが勝手にビジネスを運営するわけではありません。
事業の目標を決め、ブランドの方向性を選び、最終的な判断を下すのは、あくまでECの運用担当者自身です。Sidekickの役割は、その目標を実現するために必要な情報を集め、状況を分析し、次の行動を提案し、実際の作業を支援することにあります。
Sidekickに何を実現したいかを伝えるだけで、必要なデータや機能をSidekickが探し、目標達成までの道筋を組み立ててくれます。

賢くなるほど明確になった、アプリへのアクセス不足

Sidekickの利用が拡大する一方で、明確な課題も浮かび上がりました。SidekickはShopifyの標準機能やコマース全般に詳しくなりましたが、マーケティングツールのメール配信実績やレビュー内容といった、Shopifyアプリの中にある情報までは十分把握できていなかったのです。
「Klaviyoのキャンペーンは売上に貢献していますか?」「対応が必要なレビューはありますか?」といった質問に答えるには、Shopify側の売上や顧客データだけでは不十分でした。この状態は、講演内で半分の脳で仕事をしているようなもの、と表現されていました。

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ShopifyでECを構築する際、どのアプリを組み合わせるかは事業者ごとに異なります。単にアプリを導入するだけでなく、SidekickなどのAIが正しく理解・活用できるアプリ構成を見据えた設計段階が重要です。

Sidekick App Extensionsで何が変わったか

こうした課題を解決するために登場したのが、Sidekick App Extensionsです。Shopifyは2025年12月にこの仕組みを発表し、18社の早期アクセスパートナーとの共同開発を経て、Shopify Editions 26春で正式公開しました。対象領域は、レビュー、メールマーケティング、ロイヤルティ、店舗分析など多岐にわたります。正式公開後は、数百のアプリパートナーが拡張機能の開発を開始したといいます。
Shopify Editions 26春について、詳しくは下記の記事をご覧ください。


アプリアクションの有無で変わる体験。提案から準備済み作業へと変化する。

データを渡すApp Data Extensions、実行を準備するApp Action Extensions

Sidekick App Extensionsには、大きく2つの種類があり、1つ目はApp Data Extensionsです。 レビューアプリであれば評価や未返信の有無、メールマーケティングアプリであればキャンペーン成果など、アプリだけが持つ専門データをSidekickへ提供する仕組みです。Shopifyは、アプリ内のデータを無差別に大量送信するのではなく、EC事業者の目標に関係する、対象が明確で最新のデータを渡すことを推奨しています。

2つ目はApp Action Extensionsです。割引コードの作成、レビュー返信の準備、顧客セグメントの作成、キャンペーンの作成といった実際の作業を、Sidekickが実行可能な状態まで準備できる仕組みです。
データだけでもSidekickは状況を分析して提案できますが、アクション拡張機能があれば、提案から実行直前の状態まで、一つの会話の中で進められます。

実行前に必ずEC事業者が承認する

Sidekick App Extensionsには、人が承認するまで、実際のデータは変更されないという重要な設計原則があります。Sidekickの役割は、変更内容を組み立て、確認できる形で提示するところまでです。
たとえば、Sidekickがレビューへの返信案を作成した場合、「文章のトーンをもう少し柔らかくしてください」「この返信はブランドの表現と合っていません」と指示すると、Sidekickはフィードバックに基づいて内容を調整します。最終的にEC事業者が内容に納得し、保存をクリックして初めて、変更がアプリ側で実行されます。

Shopifyは、AIが自律的に操作することよりも、人が最終決定権を持つことを重視しています。Sidekickが仕事を実行可能な状態まで整え、承認後の実行は各アプリが担う。この役割分担が、Sidekickの基本設計となっています。
アクション拡張機能の実行フロー。承認されるまで重要な変更は待機する仕組み。

Judge.meが示す理想的な実装例

早期アクセスパートナーの中でも、優れた事例として紹介されたのがJudge.meです。
Sidekickに「対応が必要なレビューを教えてください」と依頼すると、Shopifyの商品情報や販売状況と、Judge.meが持つレビューの評価、投稿日、感情分析、未返信の有無、対象商品といったデータを組み合わせた上で、返信が必要なレビューを特定し、返信文の案まで作成します。

人が返信案を確認し、修正し、保存をクリックするまでは、返信は公開されません。これまで数百件、数千件のレビューを手作業で確認していた事業者も、Sidekickとの会話を通じて効率的に対応できるようになります。
Judge.meが専門データと操作機能を提供し、Sidekickがブランド全体の文脈を理解し、人が最終判断を下す。これが、データ拡張機能とアクション拡張機能を組み合わせた完成形です。

公開2週間で46万回。160以上のアプリが統合済み

Sidekick App Extensionsは、単に開発者向けに公開された機能にとどまりません。ローンチから6月末までの約2週間で、Sidekickはアプリ拡張機能を46万回呼び出したといいます。
現在では、160以上のアプリがSidekickに統合されており、アプリ事業者にとっては、Shopify App Storeでの検索や広告とは異なる、新しい利用導線が生まれたことになります。

Pulse連携でECサイトを常時分析

Sidekick App Extensionsの次の展開として、Shopifyの「Pulse」との連携も紹介されました。Pulseは、人が操作していない間もECサイトを分析し、ビジネス上の機会を探す機能です。新しい通貨を有効にする機会、活用されていない割引、不足しているコレクションなどを見つけて提案します。

現時点のPulseは、主にShopifyのデータモデルを使ってストア分析をしていますが、今後はSidekick App Extensionsを通じて、アプリ内のデータも利用できるようになる予定です。レビューアプリのデータから商品改善の機会を見つけたり、ロイヤルティアプリのデータから顧客施策を提案したり、とEC運用のさまざまなシーンで欠かせない存在になっていくでしょう。
Sidekick Pulseは、アプリからの気づきや提案を自動で受け取れる機能。

ShopifyアプリのAIエージェント化

Sidekick App Extensionsによって、Sidekick自体がアプリのデータや機能を呼び出せるようになったことを見てきました。同時に、周辺アプリの側でも、AIを前提にした進化が進んでいます。
前日のパートナーデイでは、Shopifyアプリのベンダーから知見を得られた

KlaviyoはCDPへ。Customer AgentとMCP公開

Sidekickだけでなく、周辺アプリ自体もAIを前提に進化しています。その象徴が、メール・SMS配信ツールとして知られてきたKlaviyoです。
Klaviyoは現在、すべての顧客データをAIが活用できるプラットフォームへの転換を進めており、その柱となるのがShopify Sidekick連携、Customer Agent、Custom Objects、MCP/API公開といった取り組みです。
この連携によって、Sidekickは顧客データやマーケティング指標、キャンペーン情報まで理解できるようになり、Klaviyo側のデータも踏まえて回答が返ってきます。

さらにKlaviyoは、SMS・メール・チャットなど全チャネルでAIが対応するCustomer Agentも提供しています。Shopify、Klaviyo、外部APIをリアルタイムに呼び出せるため、注文状況やポイント残高といった質問にもその場で答えられます。現在30以上のツールが用意され、さらに20以上の追加が予定されているといいます。

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BiNDecでは、Klaviyoのほか様々なMAツールの導入支援をしています。メール配信の効率化だけでなく、AIエージェント活用まで見据えた設計で、ECサイトの顧客体験を高めるツール選びが重要です

新しいお客様アカウントは購入後体験のハブ

Shopifyの標準ログイン機能であるお客様アカウント(Customer Accounts)も、AIを前提とした進化を続けています。
ログインセッションは最大1年間維持できるようになり、顧客は毎回ログインし直す必要がないため、スムーズな購入体験が可能になりました。さらに、Shopify Inboxと連携したAIエージェントでは、注文状況確認、商品レコメンド、返品手続き、配送先変更までチャットから実行できるようになりました。
新しいお客様アカウントについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。

今回の発表で特に印象的だったのが、Sidekickによるアップグレード支援です。アップグレード時には、Sidekickが既存のLiquidコードを解析し、「現在利用しているReturn AppにはCustomer Account Extension版があります」「Rechargeにはこちらの移行方法があります」といった案内を自動で行います。すでに90%以上のストアが新しいお客様アカウントへ移行済みで、残るエンタープライズ企業の移行支援が今後の課題となりそうです。

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新しいお客様アカウントの移行がまだの場合、既存アプリとの互換性確認や移行方針の整理が必要になります。移行時のトラブルを防ぐため、専門知識を持つShopifyパートナーへの相談がおすすめです。

Shopify社内の働き方を変えたAIエージェント「River」

ここまで紹介してきたSidekickやKlaviyoは、EC事業者やその顧客に向けたAIエージェントでした。DotDev 2026では、Shopifyが社内の開発体制をどのようにAIエージェントで変えているかについても語られました。その中心にあるのが、社内AIシステム「River」です。

Riverが社員の約90%に浸透。マージPRの4本に1本に関与

Riverは、社内に存在する情報や議論、プロジェクトの流れを横断的に理解し、社員が必要な情報へアクセスしやすくするための仕組みです。 イベント時点で、週次ユーザーは7,000人以上、デイリーユーザーは6,500人以上に達しているといいます。Shopify社員の約90%が、日常的にRiverを利用している計算です。 直近1か月でマージされたPull Requestのうち、約4本に1本にRiverが関与したといいます。社内のソフトウェア開発において、AIエージェントがすでに人と並ぶ役割を担い始めているそうです。

Riverが変えたのは、個人から組織のAI活用への転換

多くの企業では今、AI活用が個人のスキルに閉じてしまっています。チャットツールの使い方が上手な担当者や、AIコーディングツールを使いこなせるエンジニアが個々に成果を上げている一方、そのプロンプトやノウハウは個人の中に埋もれ、組織の知識として蓄積されていません
Riverが優れているのは、社員が普段仕事をしているSlackにその中心を置いたことです。AIとのやり取りそのものを、個人の作業履歴ではなく組織全体の知識に変える仕組みになっています。

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AIを新しく入社した社員だと考えると、マニュアルがなく、情報がバラバラで、誰が何を決めたのかも分からず、過去の事例も検索できない。判断基準が誰かの頭の中にしかない状態では、AIも人と同じように、うまく働くことができません。
Riverのように業務の中心にAIを置く仕組みは、担当者しか分からない業務、Slackの流れに埋もれて消えてしまった決定事項、人によってばらつく作業手順などの属人化や情報の分散を可視化するきっかけにもなります。AIが仕事をしやすい環境は、実は人にとっても働きやすい環境でもあるのです。

AI導入の成否を分けるのはツールではなくプロセス設計

Sidekick App ExtensionsやRiverの事例が示すのは、AIエージェントの性能そのものよりも、それをどう業務に組み込むかが成果を左右するという点です。

管理工数の増加がAI導入のボトルネックになる

Shopifyアプリを提供するNotify Meは、2025年初頭、AIを前提とした組織改革に着手しました。開発者をフルスタック化し、プロダクトデザイナーとプロダクトマネージャーの役割を統合することで、開発スピードはおよそ2倍になりました。一見大きな成功に見えましたが、同社が本当に目指していた状態には届いていませんでした。

原因は、AIが速く成果物を作っても、最終的な確認や意思決定を人間が担っている限り、プロセス全体の速度は上がらないという点にありました。AIによってボトルネックが解消されたのではなく、ボトルネックの場所が人間側へ移動しただけだったのです。
Notify Meが直面した3つの誤算
課題はほかにもありました。開発者は日常的にAIを使いこなす一方、デザイナーやマーケターの活用レベルは追いつかず、部署間で速度の差が生まれていました。さらに、AIとのやり取りには何度も確認と修正の往復が発生し、作業時間が削減される一方でAIを管理する時間が増えていきました。
Notify Meは、問題は、個々の人材の能力でもAIエージェントの性能でもなく、プロダクト開発のプロセスそのものにある、という結論に辿り着きました。

解決策はAIエージェント同士が協働するソフトウェアファクトリー

Notify Meはこの結論をもとに複数のAIエージェントが連携して働くソフトウェアファクトリーを構築しました。
このシステムでは、リサーチ、設計、開発、テスト、リリース、学習といった工程を、それぞれ異なるAIエージェントが担当します。各エージェントは前の工程から成果物を受け取り、内容を確認し、必要に応じて修正しながら次の工程へ進めます。人間の役割も、作業者からプロセス全体を率いる管理者へと変化しました。

仕組みを支えるのは、各工程をAIエージェントが担当すること、成果物をエージェント同士がレビューし合う閉じたループになっていること、そして開発中のミスや意思決定もすべて知識として蓄積されることの3つです。なぜその設計を選んだのか、どの修正が有効だったのかという経験がシステムに蓄積されるほど、ファクトリーはプロジェクトを重ねて賢くなっていきます。
このようなワークフローやAIエージェントの構成自体は他社でも構築できますが、過去のリリース、ミス、修正、意思決定、顧客からの反応としてシステムに蓄積された経験だけは、簡単にコピーできません。

AI時代のECビジネスにおける競争優位は、経験を学習し続ける仕組みにある

AIの性能は、今後さらに均質化していくと考えられます。経験を持っているかどうかだけでは、もはや差別化にはなりません。重要なのは、経験の量ではなく、その経験を構造化し、AIが学習し続けられる仕組みを持っているかという点です。
この変化は、人間の役割も変えていきます。判断することも少しずつAIが担えるようになる中、人間にとってより重要になるのは、何を目指すのか、そのゴールを決めることです。AI時代に重要性を増すのは、次のような能力です。

  • AIに適切に問いを立てる質問力
  • 目的やゴールを定める力
  • AIの出力に対する違和感を察知する力
  • 複数の選択肢から取捨選択する力
  • 最終的な判断に責任を持つ力
  • 蓄積した経験をAIが学習できる状態に整える力

AIの性能差が縮まるほど、企業の差は、何を知っているかではなく経験からどれだけ速く学習できる仕組みを持っているかに移っていきます。Sidekick App Extensions、River、Notify Meの事例に共通するのは、まさにこの学習ループをどう設計するかという問いでした。

BiNDecが目指しているのも、単にAIツールを導入したECサイトではありません。蓄積された経験を構造化し、AIが学習を続けられる、完全AI駆動型のECへの転換です。
BiNDecでは、400ストア以上のShopify構築・運用支援で蓄積してきたノウハウを活かし、AI時代のEC運営に必要な仕組みづくりをご支援しています。ハイレベルな技術力・知識量を認められたShopify Platinumパートナーとして、中小規模から大規模のビジネスに向けた最適な運用戦略の提案も可能です。ShopifyでのEC構築や運用に関してお悩みの方は、気軽にお問合せください。

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