クロスセルとは、顧客が商品の購入を検討している場合にほかの関連商品も合わせて提案する手法のことです。クロスセルを活用することで顧客が手に取る商品の幅を広げていけば、売上の向上につながるでしょう。
本記事では、クロスセルと似た言葉との違いやメリット、注意点、具体例、手順、成功のポイントについて解説します。売上の向上を目指すEC事業者は、ぜひ参考にしてください。
クロスセルとは、検討中や購入済みの商品に関連する別商品を提案すること
クロスセルとは、顧客が購入を検討している商品やすでに購入した商品と合わせて、関連する別の商品をすすめる営業手法です。
クロスセルによって、顧客との取引開始から終了までの利益の合計であるLTV(Life Time Value)の向上が見込めます。LTVは、リピート購入を促したり、幅広い商品を利用してもらったりすることで増加します。クロスセルで元々予定していた商品に追加して別の商品も購入してもらえれば、1取引あたりの決済額が上がるため、その分LTVの上昇を見込めるでしょう。
ECにおけるそのほかのマーケティング手法について詳しくは、下記の記事をご参照ください。
→クロスセルで売上を上げるための定番マーケティング施策とは?
アップセル、ダウンセルとクロスセルの違い
クロスセルと混同されやすい言葉として、アップセルとダウンセルが挙げられます。それぞれ、下記のような点でクロスセルと異なります。
アップセルとの違い
アップセルは、クロスセルと同様に売上を伸ばすための営業手法ですが、異なるのは提案する商品の内容です。クロスセルが購入してもらう商品の種類を増やして売上を伸ばす手法であるのに対し、アップセルでは、同様の機能を持つ上位商品を提案して売上アップを狙います。
例えば、1個300円の洗剤の購入を検討している消費者に対し、より洗浄力の優れた400円の洗剤や、倍の量が入った550円の洗剤を提案するのがアップセルです。一方のクロスセルでは、洗剤といっしょにスポンジなどの購入を提案します。
ダウンセルとの違い
ダウンセルも、クロスセルとは異なり、顧客が購入を検討している商品の別グレードを提案する手法です。アップセルと異なるのは、顧客が購入を検討している商品よりも安価な商品をすすめる点です。
商品を売る側は、通常、より高い商品を売りたいと考えているでしょう。しかし、価格がネックになって購入するか迷っている顧客に対しては、似た機能を持つ安価な商品を提案することで購入を後押しできる可能性があります。
例えば、1万円のドライヤーの購入について悩んでいる顧客がいて、購入に踏み切れない原因が価格だった場合、似た機能を持つ8,000円のドライヤーを提案することで購入してもらえる可能性が高まります。ダウンセルは、このようにたとえ単価が低くなっても購入してもらえないよりは購入に至るほうが良い、という場合に採用される手法です。
売上額とエンゲージを上げるクロスセルの3つのメリット
クロスセルを実施することで、事業者はさまざまなメリットを得られます。下記の3点は、よく挙げられる代表的なメリットです。
→クロスセルで売上を上げるための定番マーケティング施策とは?
顧客単価の上昇
クロスセルのメリットは、顧客単価の上昇を見込める点です。クロスセルによって、顧客が元々購入予定だった商品以外の商品も手に取ってくれれば、その分、1回の取引での顧客単価が上昇します。顧客単価が上昇すれば、それだけ売上と利益のアップにつながるでしょう。
クロスセルは、LTVの上昇にもつながります。LTVは顧客との取引開始から終了までの利益の合計で、下記の計算式で求められます。
LTVの計算式
LTV=購入単価×購入回数×継続期間
LTVは、一般的には顧客一人ひとりについて個別に計算するのではなく、下記のように平均値で計算します。
平均値で計算する場合のLTVの計算式
LTV=1取引あたりの平均購入額×顧客ごとの年間平均購入回数×平均継続年数
例えば、1取引あたりの平均購入額が1万円、年間平均購入回数が10回、平均継続年数が5年だった場合のLTVは、1万円×10回×5年=50万円です。クロスセルによって1取引当たりの平均購入額が1万2,000円に上昇すると、1万2,000円×10回×5年=60万円となり、LTVが上昇します。
企業イメージの向上
企業イメージの向上につなげられるという点も、クロスセルのメリットです。クロスセルを上手に活用することで、顧客から「必要な商品の案内をもらえて助かった」という評価を得られる可能性があります。
例えば、ペンチがないと加工できないパーツを購入しようとしている顧客に、ペンチやパーツの保管に役立つケース、ピンセットなどをクロスセルで同時提案することによって、顧客は必要なアイテムを一度にそろえられるようになります。
せっかくパーツが届いても、必要な器具がなくて使えなかったり、細かいパーツをうまく保管できずに紛失してしまったりするとストレスになるでしょう。役立つ商品をクロスセルで提案することは、顧客にとってのメリットにもなります。
リピート率の向上
クロスセルのメリットとして、リピート率を向上させられるという点も挙げられます。顧客に商品を見つけてもらうという受け身になりがちなEC事業では、関連商品を提案することで「こんな商品もある」と顧客に伝えられる点は重要です。その場で購入に至らなかったとしても、一度おすすめ商品として提案されていると、「そういえば、あの商品を買おうかな」と後で思い出してもらえる可能性があります。
リピート率の向上は、LTVの上昇につながる重要な要素です。リピーターを獲得することで、安定的な収益を上げやすくなります。顧客にメリットのある商品を提案し、次の購入を促しましょう。
なお、クロスセルで提案した商品をその場で購入してもらえた場合も、提案した商品が顧客の要望に合っていれば、継続して購入してもらえるかもしれません。商材にもよりますが、日用品などの消耗品であれば、リピート購入につながる可能性を高められます。
クロスセル施策を行う際の注意点
クロスセルには、注意しなければならない点もあります。安易に利用すると逆効果になってしまうこともあるため、下記の2点に注意しながら十分な分析を行ってクロスセルを活用してください。
顧客ニーズの把握と提案力が必要になる
クロスセルを成功させるためには、顧客が何を求めているのかを正確に把握しなければならない点に注意が必要です。
例えば、手帳を購入したユーザーは「ボールペンも欲しい」と考える可能性があります。しかし、手帳とセットで持ち歩くボールペンは、一般的なボールペンよりも細く小型であったほうが便利です。また、手帳のサイズやデザインに応じて、同時購入されやすいボールペンの種類は変わるでしょう。
また、手帳がインフルエンサーとのコラボ商品だった場合、同じインフルエンサーとコラボしている別商品を提案したほうが売上につながる可能性もあります。手帳のクロスセルとして、常にボールペンを提案すれば売上につながるとは限りません。
クロスセルでは、特定の商品を買おうとしている顧客が何を求めているのか、顧客のニーズを詳細に分析して的確な提案をする必要があります。
不快感を与える提案はイメージ悪化につながりかねない
クロスセルでは、イメージ悪化につながる提案にならないよう、注意しなければなりません。クロスセルの提案が顧客のニーズに反していると、顧客に「欲しい商品を買わせてくれれば良いだけなのに、しつこい」と思われてしまうリスクがあります。関連商品の提案は、顧客の購入動作の妨げになったり、不快感を抱かれたりしないように行いましょう。
例えば、ECサイトで商品をカゴに入れて決済手続きをしようとしたとき、決済完了までに複数回おすすめ商品の紹介ページが挟まってスムーズに決済画面に遷移できないと、面倒に思われてしまうかもしれません。カゴに入れた直後の確認画面で1回だけ関連商品を表示するなど、なるべくストレスを感じさせない提案ができるようにECサイトの設計を行ってください。
→クロスセルで売上を上げるための定番マーケティング施策とは?
ECで行うクロスセルの具体例
クロスセルは、主に関連商品の提示、またはセット商品の提示によって行われます。それぞれのパターンの具体例を解説します。
関連商品の提示
関連商品の提示とは、購入を検討している商品の近くに、その商品の利用シーンを想定した関連商品を近くに展示したり表示させたりして、購買を促す方法です。
スーパーの売り場を見ていると、食肉売り場で焼肉のたれを売っていたり、鮮魚売り場でワサビを売っていたりすることがあります。これは、同時購入されることが多い商品を近くに置くことで、手に取ってもらう可能性を高める手法だといえるでしょう。同様に、野菜売り場に「野菜がおいしく食べられるドレッシング」などや「特定の野菜さえあれば作れる料理の素」などを置くこともあります。
ECサイトでも、「よく一緒に購入されている商品」などの欄で関連商品を表示させて同時購入を促す手法は一般的です。BiNDecが支援したテーブルウェアやインテリア雑貨ブランド「KINTO」のECサイトでは、商品の詳細ページに「RELATED ITEMS」として、関連商品が掲示されます。例えば、タンブラーの商品ページを開くと、商品の詳細な案内とともに、タンブラー用の予備のパッキンやストラップなどの商品が紹介されています。
セット商品の提示
セット商品の提示とは、特定の商品を買おうとした顧客に対し、その商品が含まれるセット商品を提案する手法です。例えば、緑茶のパックを1点買おうとしている顧客に対し「2点買うと割引」という提案を行うケースが該当します。
同じ商品を複数買うと割引になるケースのほか、関連する商品といっしょに買うと合計額が割引になるようなセット商品の提案も、一般的な方法です。「どうせならセットになっているほうがいい」と思って購入してもらえる可能性があるでしょう。
BiNDecがECサイト構築を支援した「john masters organics」では、例えばシャンプーの商品ページにヘアマスクやコンディショナーなどとまとめた「SPECIAL KIT」というセット商品の案内欄を表示させています。john masters organicsで取り扱われているヘアケア用品やソープなどの消耗品は、ブランドを統一してまとめて買いたい需要も高く、セット商品を提示するクロスセルに適しているといえます。
→クロスセルで売上を上げるための定番マーケティング施策とは?
適切なクロスセルを行うための手順
クロスセルは、十分な分析と準備にもとづいて行わなければなりません。下記の3ステップに沿って実施しましょう。
1. 顧客情報を収集・分析する
最初のステップは、顧客情報を収集、分析することです。自社の顧客がどのようなニーズを持っているのかがわからなければ、適切な提案を行うこともできません。顧客の年代や興味のあること、住んでいる地域、いつ、どのような経緯で、何を買っているのか、問い合わせ・クレームなどで寄せられた意見・要望にはどのようなものが多いのかなどをもとに、顧客の傾向を調査します。
顧客情報は、多く集まるほど正確な傾向をつかみやすくなります。特にECサイトでは、顧客のサイト流入経路や、どのページにどの程度の時間とどまったのかといった細かいデータの収集が可能です。得られるデータをフル活用して分析を行ってください。
なお、顧客をパターンごとに分け、それぞれの顧客に適したクロスセルの提案を行う手法もあります。例えば、購入頻度や購入金額などをもとに顧客をグループ分けして、優先的にクロスセルの提案を行う顧客を選定するといったケースです。
2. 顧客のニーズに合ったクロスセルの提案商品を考える
顧客の分析ができたら、ニーズに合致したクロスセルの提案商品について検討します。どの商品同士を組み合わせて提案すべきか、慎重に検討しましょう。関連性の低い商品を無理に提案しようとすると、顧客の評価を下げるおそれもあります。顧客にとってもメリットのある提案を心掛けなければなりません。
例えば、まとめ買い割引は、比較的簡単に導入できる手法です。一方、関連商品の提案については、該当商品を購入する顧客のニーズを把握して適切な商品を選定する必要があります。「Aという商品を購入する顧客はBという商品も求めるかもしれないが、Bを購入する顧客はすでにAを購入している層が多いため、AではなくCを求める可能性が高い」といったケースも考えられるため、単純に関連商品をグループ分けして相互に表示させるだけでは不足があります。適切な提案内容を検討してください。
3. 自然な流れ・時期で提案する
クロスセルで提案する商品の組み合わせを検討したら、次の段階は商品提案のタイミングと方法の検討です。クロスセルの提案は、できるだけ自然な流れの中で行う必要があります。
特に対面でクロスセルを行う場合は、顧客の状況を確認した上で、適切な商品を相手に負担に思われないように提案しなければなりません。商談の流れの中で、「もし◯◯というお悩みがあるようでしたら、こちらを合わせてお使いいただくのがおすすめです」というように、顧客にとってのメリットを案内しましょう。「これも買いませんか」という姿勢でアピールすると不愉快に感じられる可能性があるため、あくまでも顧客のニーズに寄り添った提案が重要です。
一方、ECサイトでのクロスセルの提案は、顧客の動線を邪魔せずに行うのが効果的です。商品を検索し、カゴに入れて決済をするまでの流れに複数回のステップが挟まり、ストレスを感じさせてしまうと、元々購入を検討していた商品の購入も断念されてしまうおそれが高まります。スムーズに関連商品が目に入るように、決済完了画面表示時など購入手続きの流れの中で邪魔にならないタイミングや、商品情報の詳細が表示されている画面などで適切な案内を行ってください。
クロスセルを成功させるためのポイント
クロスセルを成功させるためには、提案のタイミングや手法に注意する必要があります。下記の5つのポイントを意識すると、クロスセルの成功につながりやすいでしょう。
購入意欲が高まる適切な時期に提案する
クロスセルの成功には、購入意欲が高いタイミングで提案するのが効果的です。
例えば、新商品の良い口コミを見て「この商品が欲しい」と思ったときは、顧客の購入意欲は高い状態にあるといえます。しかし、それから数日経過すると購入意欲は徐々に下がっていく場合が多いと考えられます。このように、顧客の商品購入意欲には波があるため、商品購入意欲が高いタイミングで適切な提案を行わなければなりません。
一般に、商品を購入した直後や、商品やショップの魅力を感じて顧客満足度が高まった瞬間は、商品の提案に適したタイミングだといわれています。また、顧客満足度が高まると「またこの店で買い物をしよう」という気持ちが強まります。これらのようなタイミングを逃さないことが重要です。
アフターフォローをしっかり行う
クロスセルを一度の成功で終わらせず、継続的に行っていくためには、アフターフォローを行って顧客満足度を上げることも効果的です。商品購入後も、その後も商品の使用方法の悩みを伺うメールなどでアフターフォローを綿密に行い、顧客から「信頼できるショップだ」「このショップがおすすめする商品なら買っても良い」と思ってもらえるような対応を行いましょう。
アフターフォローは、顧客との接点を作るという意味でも重要です。問い合わせなどへの対応はもちろん、購入した商品に関する情報提供や定期メンテナンスの案内などを行うことで、顧客との良好な関係を継続できます。
顧客にメリットを感じてもらえる工夫をする
クロスセルで重要なのは、顧客にメリットを感じてもらうことです。クロスセルによって自社の利益を上げるとともに、顧客にも「欲しい商品をセット価格でお得に買えた」「必要な商品を良いタイミングで提案してもらったおかげで買い忘れを防げた」と感じてもらえるような工夫を行ってください。
クロスセルでメリットを感じた顧客は、その後の提案に対しても前向きに検討してくれる可能性が高まります。顧客に喜ばれる提案をすることが、将来の利益にもつながるのです。
顧客に応じた複数の企画を考える
クロスセルは、顧客の属性に応じた提案を行ったほうが効果を上げやすくなります。例えば、これまで数千円単位の買い物しかしてこなかった顧客に突然数万円の商品を提案しても、購入には至らない可能性が高いでしょう。反対に、高価格帯商品を選ぶことが多い顧客に対しては、値段の安さが魅力の商品よりも、高品質な商品を提案したほうが興味を持ってもらいやすくなります。
同じ商品を買ったとしても、顧客の購入履歴や属性によっておすすめすべき関連商品は変わります。それぞれの顧客の属性に合わせて、複数の提案パターンを用意しておいてください。
ECサイトではクロスセルを促すための接点を増やし、有効活用する
ECサイトでクロスセルを成功させるためには、クロスセルを促すための接点を多く持てる機能が必要です。
ECには、ランディングページ(LP)や決済方法・配送先などの情報入力画面、メールなど、さまざまなシーンで顧客と接点を持てるという強みがあります。クロスセルでは、これらの接点を最大限に有効活用しなければなりません。接点を増やしながら、どの接点でアクションを取ればクロスセルで提案した商品を購入してもらいやすいかを、顧客情報をもとに検討することが重要なのです。
クロスセルに対応できるよう、数多くの接点を持てるECサイトを作るには、LP作成やSNS連携、メールマーケティングなどが簡単にできるShopifyが便利です。Shopifyなら、プランによっては決済方法・配送先などの情報入力画面をカスタマイズすることもできるため、クロスセルを狙えるようなさまざまな機能をECサイトに導入できるでしょう。とはいえ、「具体的にどのような設計にすれば良いのかわからない」という事業者もいるかもしれません。そのような場合は、ShopifyのECサイト構築支援で豊富な実績のあるBiNDecをご活用ください。
BiNDecは、WEBLIFEが提供するShopifyによるECサイト構築支援サービスです。クロスセルを実現できるECサイト構築や、SNSやメールマガジンなどを使ったマーケティング支援など、ECサイト運営に関する総合的なコンサルティングを行っています。それぞれの商材やターゲット層に合わせたクロスセルの手法のご提案と、実行時の支援を行います。
Shopifyについて詳しくは、下記の記事をご参照ください。
→クロスセルで売上を上げるための定番マーケティング施策とは?
クロスセルをうまく活用してLTVの向上を目指そう
さまざまな要因による消費動向の変化が起こっている昨今、安定した収益を上げるためには、自社に興味をもってくれた顧客のLTV向上を目指すのが効果的です。クロスセルで、LTV向上を狙いましょう。
ECサイトでクロスセルによるLTV向上を図りたい場合は、そのための機能を有したプラットフォームを選ばなければなりません。ECサイト構築用プラットフォームのShopifyなら、ECサイト上はもちろん、LPやSNS、メールマガジンなどさまざまな接点でクロスセルを提案できます。アプリによる機能拡張性に優れ、料金プランも豊富に用意されているので、事業規模に合ったプランで無理なく始められるのがShopifyの魅力です。
ShopifyでのECサイト構築に興味がある場合は、ShopifyのECサイト構築、運用支援サービスBiNDecをご検討ください。Shopifyの公認バートナーの中でも最上位のShopify Plus PartnersであるWEBLIFEが、豊富な実績をもとに、ECサイト構築と運用、マーケティングの総合支援を行います。
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