ECサイトを運用し、成長させていくためには、ルーチン的なものからクリエイティブなものまで、様々な作業が必要です。最近ではAI技術も注目されてきており、従来人の手を必要としていた作業も、AIを活用することで自動化に向けてのステップを着実に進めつつあります。
今回は、ECサイトにおけるAIの役割を明らかにするとともに、Shopifyが提供または予定しているAI機能の種類やメリットについて紹介していきます。
ECにおけるAI活用の2つの側面
ECサイトにおけるAI利用は、おそらく多くの人が考えている以上に浸透しています。2022年の時点で、すでにAIを活用したeコマース市場の規模は5.81億ドル(約910億円)に達していました。そして、2032年までに45.72億ドル(約7,160億円)に達するとの予測もあるのです。
2023年末の段階で80%の小売業の経営幹部が2025年までにAI自動化を採用すると回答(*1)しており、EC領域のAI技術が重視され、実際の導入も進んでいるといえるでしょう。
一方で、ひと口にAIといっても、ECサイトにおけるユースケースには2つの側面があります。
1つめは、ユーザーが意識しない使われ方。これは、スマホのカメラで夜景を綺麗に撮るためのAI機能に似て、ユーザーが無自覚のうちにAIの恩恵に与っているというものです。
2つめは、ユーザーが担当していた作業をAIが代行してくれるもの。こちらは、最小限の指示を与えるだけで、必要な情報やコンテンツを揃えてくれたり、顧客に合わせてカスタマイズしてくれるAIです。
ユーザーが意識しないAIの働き
ECサイトにおけるユーザーが意識しないAI機能の代表例は、不正検出です。これによって、不正な取引をリアルタイムで検出し、ECサイトのセキュリティを強化することができます。結果として、顧客の信頼を獲得しやすくなり、ビジネス上のリスク低減につながるのです。
ユーザーの作業を代行するAIの役割
EC事業者が、より直接的な恩恵を感じられるのが、このユーザーの作業を代行するAI機能です。いわゆる生成AI系の技術で構成され、イメージや説明文、ブログ記事などの生成から、顧客サポートのチャットボットまで、様々な処理を省力化することが可能です。
いずれにしても、マーケティングと販売部門にAIを導入した企業の79%が収益の増加を報告(*2)しており、これからのEC事業者にとってAI技術の活用が常識化していくことは間違いありません。
*1=Top AI Statistics for 2024: Artificial Intelligence Trends
*2=AI in eCommerce: Statistics, Facts, Use Cases and Benefits
ECの業務効率化と売上向上に効く、AIの8つのポイントと事例
では、ECサイトにおけるAIの8つのユースケースを説明していきましょう。
また、世界的なエンタープライズ企業のECサイト構築にも多く利用されている、コマースプラットフォームShopifyのEnterprise Partner Summit2023でも、NIKEが考えるAI活用について語られています。こちらのレポートもぜひ合わせてご覧ください。
商品説明の自動生成
ECサイトの売上向上には、適切な商品説明が欠かせません。しかし、扱い商品が多かったり、シーズンごとの入れ替えが頻繁だったりすると、個々に説明を考えるだけでも煩雑になります。
AIには文章のトーンなども指定できるので、ECサイトのブランドイメージに合う説明文を短時間で揃えることが可能です。
ECサイトの商品説明の書き方のコツを知ることでAIからの提案の調整もスムーズに行えるでしょう。ぜひこちらの記事も参考にしてください。
コンテンツ配信の自動化
ECサイトの信頼感を高めるために、商品の関連情報やお役立ち情報をSNSやブログで発信することが効果的です。
それと同時に、そのようなコンテンツの有効性を最大限に高めるには、発信や公開を継続的に行う必要があります。これも、一定の質を保ちながら続けていくことは煩雑な作業となるため、AIを利用して生成、配信を行うことが少しずつ一般化しているのです。
AIを利用したコンテンツ制作ではChatGPTも有用です。EC担当者必読の活用術と注意事項をまとめた記事もありますので、合わせてご覧ください。
パーソナライゼーションとレコメンド
AIを活用して顧客の過去の購買履歴や閲覧履歴を分析し、それに基づいて個々の顧客に合わせた商品のおすすめやパーソナライズされたマーケティングメッセージを提供することができます。これにより、顧客の満足度を高め、リピート購入やアップセル、クロスセルの機会を増やすことが可能です。
実際に、顧客ごとの商品ページのパーソナライゼーションとレコメンド機能へのAI導入は企業に大きなメリットをもたらしており、たとえば、Amazon.comでは年間総売上の35%がAIを活用したレコメンドによるもので占められている(*3)のです。
また、AIによってパーソナライズされた商品レコメンドがコンバージョン率を26%上昇させたという報告や、AOV(平均注文金額)も同じく26%増加させることが可能との研究結果(*4)も得られています。
*3=AI in eCommerce: Statistics, Facts, Use Cases and Benefits
*4=65 Essential AI in E-commerce Statistics To Know In 2024
在庫管理と需要予測の最適化
過去の販売データや市場動向の分析に基づく将来の商品需要予測によって、特定の在庫が一定の閾値に達した時点で自動的に発注を行う補充プロセスの自動化などにより、過剰在庫や品切れを防ぎ、在庫の管理コストを削減することができます。
これによって経営の安定化を図れるとともに、顧客が買いたいと思う商品の欠品を防ぐことが顧客満足度の向上につながり、ECサイトに対する信頼感のアップにも貢献します。
ECマーケティングの自動化と最適化
AIを活用して顧客データを分析することで、効果的なマーケティングキャンペーンの設計が可能となります。たとえば、AIによる顧客データ分析によって、特定の顧客セグメントに適したマーケティングメッセージを送ったり、セールスプロモーションを展開できるようになるわけです。
そして、キャンペーンの成果をリアルタイムで分析し、最適化していくことにより、ROI(投資利益率)の向上が期待できます。
ECサイトにおけるマーケティングの基本をまとめた記事もありますので、合わせて参考にしてみてください。
CRMの自動化による顧客体験の向上
CRMとは、顧客との関係を深めて満足度やロイヤルティを向上させることを指しますが、AIによって顧客の購買パターンを分析することにより、効果的な特典を用意したりリワードを提供しやすくなります。
また、扱い商品が消耗品の場合には、顧客が再購入するタイミングをAIで予測することで、適切なリマインダーを送れるようになり、これもCRMの向上に役立つといえるでしょう。
カスタマーサポートの自動化
カスタマーサポートも、AIによる自動化に適した領域です。調査によれば、AIチャットボットの導入により、人間のスタッフによる顧客の問い合わせ対応時間を平均38時間からわずか5.4分に短縮することができ、顧客サービスコストが最大で30%も削減されたとの結果も得られています。
直近のOpenAIのChatGPT-4o(oは、omni=万能の略)の情報ページでは、生成AI同士が顧客と顧客サポート係に扮し、遅延なく感情表現豊かに会話を進めるリアルタイム映像が公開されており、こうした機能は、もはや夢物語ではないのです。
キャンペーンアイデアなどの企画立案
AIは、大量のデータを瞬時に、かつ様々な角度から分析することが可能です。こうした能力は、市場動向や顧客データ、競合分析などの情報を元にマーケティングキャンペーンのアイデア出しなどを行う際に、大いに役立ちます。
ただし、これに限らず、生成AIをアシスタントとして利用する場合には、一問一答的に答えを得ようとせず、回答に対して自分の知見も加味しながら、さらに質問を繰り返すことで企画の粒度を上げ、精度を高めていくようにしてください。
効果的なEC販促キャンペーンの立案に、こちらの記事も合わせてご覧ください。
Shopifyが考えるAIのメリットと機能
実はShopifyの名前は「shop(店舗、買い物)をsimplify(シンプル化する)」ことに由来しています。そのために、サイトのデザインはもとより、配送、税金、支払い処理に至るまでEC運営のトータルソリューションを提供し、今も定期的に多くの機能の強化、改良、追加を行い続けているのです。
そして、2023年からはAI技術の組み込みにも力を入れ始めました。AI技術も、EC運用における複雑な作業をシンプル化し、ECサイトのオーナーや事業者の負担軽減のために利用できるかためです。
ShopifyのAI機能はサードパーティアプリによるものも含めて、Shopify Magic、AIチャットボット、Sidekick、不正解析、レコメンドエンジン、AIによるメール自動化の6つに分類できます。以下は、それぞれの詳細とメリットです。
Shopify Magic
Shopify Magicを利用すると、たとえば、扱い製品であるレコードプレーヤーの写真の背景の色を変えたり、商品説明を書いたり、見込み顧客に限定割引のお知らせを考えてメールするようなことを、簡単な指示だけで行うことができます。
Shopifyは、Shopify Magicのことを「命令型から宣言型のソフトウェアへ移行した歴史的な革新」であると表現しています。ここでいう命令型のソフトウェアとは、ユーザー自身で機能を選定し、逐次命令したり、利用するソフトウェアを指します。
一方の宣言型のソフトウェアとは、「こういうことがしたいので、やってください」と宣言するだけで後の処理が自動的に行われるようなソフトウェアのことで、AIによる処理がそれにあたります。まさに魔法のように意図を汲んで処理してくれるShopify Magicは、ShopifyがECに特化して開発した生成AI機能の中核をなす存在といえるでしょう。
Shopify Magicの機能や使い方ついては下記の記事でも詳しく解説しています。
AIチャットボット
Shopify Magicの一部でもあるAIチャットボットは、24時間365日の顧客サポートを実現します。顧客のオンラインでの問合せに対して自動で回答を提供することで、顧客満足度の向上とECサイト運営の効率化を図ることが可能になります。
Shopifyストアに組み込めるチャットボットアプリやコンテンツ制作のコツについて解説した記事もございますので、合わせてご覧ください。
Sidekick
Sidekickは、専属のアシスタントのように様々な相談にのってくれるチャット系の生成AIです。
「今、売れている商品はどれか」、「いつセールを行うべきか?」といった質問に答えてくれるだけでなく、発送や在庫管理のやり方などを手順を追って説明してくれます。また、ECサイトのブランドイメージや特色に合わせて、消費者を惹きつけるためのブログコンテンツのアイデアを提案させるようなことも可能です。
不正解析
このAI機能は、Shopifyでの取引内容を自動的に常時監視して、不正注文や詐欺につながるような動きがないかを検出してくれるものです。機能は、利用しているプランによって多少異なりますが、不正に関する指標、サードパーティの不正防止アプリ対応、不正勧告サポートの3つです。
普段意識されないAI機能ですが、このような機能が備わっていることによって、取引を安全に行えるのです。
不正の指標 | 不正の兆候(配送先住所とIPアドレスのロケーションの不一致、請求先国と注文国の不一致、CVVコードの利用不可など)を監視 |
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サードパーティの不正防止アプリ対応 | Shopifyアプリストアから、不正注文防止に役立つアプリのダウンロードが可能 |
不正勧告 | 「Shopifyの不正検出経験に基づき、クレジットカード注文のリスクを低・中・高の3段階で判断し、中・高リスクの場合は注文番号の横に警告マークを表示 |
レコメンドエンジン
これは、顧客の過去のECサイト内での行動や購買履歴に基づいて、パーソナライズされた商品をレコメンドするものです。的確なレコメンドによって、顧客の関心や興味に合う商品を効果的に提案し、売上の向上につなげることができます。
AIによるメール自動化
AIを活用したサードパーティ製のメール自動化ツール(例:Mailo AI)により、顧客からのメールに対する返信の自動化が可能です。これによって、迅速かつ一貫したコミュニケーションを顧客に提供できるようになり、顧客サポートの質を向上させることができます。
ここまでの機能の日本語対応状況
AI機能の日本語対応状況については、今のところ基本的に英語で利用する環境となっており、Shopify Magicにおける商品説明文の生成など、一部の機能のみで日本語が利用できます。また、サードパーティ製のMailo AIも英語のみの対応となっているため、もし利用する場合には、海外の顧客向けのサポートなどに使うと良いでしょう。
なお、Shopify Magicは、現時点では利用しているプランを問わず無料で利用可能ですが、「お客様1人あたりの支払い金額の予測値」など一部の機能はプレミアムプラン以上のユーザー向けとなっています。
さらに、Sidekickについても、今は早期アクセス版という扱いのため、オプトインフォームに登録したうえで、審査に通った事業者のみが試用できる仕組みです。
AI活用の知見を高めてEC業務を効率化しよう
このように、AIはECビジネスの様々な側面を支援することができ、Shopifyも着実にサービス内でのAI機能を充実させてきています。
実際に買い物をする立場の顧客としても、54%のオンライン消費者が、AIを活用したECサイトでのショッピングを人間が運営するサイトよりも好むと回答していたり、40%の消費者が、ショッピング体験を向上させるためにチャットボットを利用したいと考えているとの調査結果(*5)もあるほどです。
まずは商品説明や顧客向けのメールの文面など、身近なところから少しずつでもAIを利用して自らその特性を理解し、人間とAIの役割分担を見極められるようになることが重要といえます。
ShopifyのAI機能には、まだ日本語化されていない部分もありますが、外部の日本語対応の生成AIサービスなども併用して、自社なりのAI環境を整えてみてはいかがでしょうか。
Shopify Plus Partnerとして豊富な経験と実績を持つBiNDecでは、AIの活用方法を含めて、最新のECサイト構築、運用を支援しています。新規のECサイト立ち上げはもちろん、既存ECサイトのリプレースも、ぜひBiNDecへご相談下さい。
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*5=Ai In Ecommerce Statistics: Latest Data & Summary