リテールメディアはD2Cに有効?これからの広告ビジネスを牽引する巨大市場

小売業界でいま注目されている広告モデルの「リテールメディア」について、基本的なビジネスモデルの構造から活用法、自社で販売して購買データを保有するD2Cブランドにとっての必要性を解説します。
リテールメディアはEC先進国のアメリカを中心として圧倒的な成果を上げており、日本でも規模が拡大しつつあります。

リテールメディアとは

リテールメディアとは、メーカーが小売企業(リテール)の所有する消費者の購買データを活用し、広告配信やキャンペーンを実施できる仕組みです。

商品を購入する消費者の属性や行動のデータ(ファーストパーティデータ)を持たないメーカーに、小売企業が保有する顧客の購買データを提供することで、メーカーの想定するターゲット層に広告を配信できるため、小売企業における新しい収益モデルとして注目を集めています。
リテールメディアの仕組み

配信されるメディアの種類

広告が配信される媒体は、リテールが所有するメディア内のオンサイト広告、外部の広告プラットフォームを利用するオフサイト広告、オフライン環境での物理的なインストア広告があります。
それぞれのメリット・デメリットがあるので、ターゲットに合うメディアを選ぶと良いでしょう。

広告タイプ メディアの例 メリット デメリット
オンサイト ・ECサイト
・アプリ
・自然なデザインでPRできる
・購入までのステップがスムーズ
・自社サイトへ誘導しにくい
オフサイト ・Web広告
・SNS広告
・配信先のボリュームが広い ・広告だと認識されやすい
インストア ・デジタルサイネージ
・店頭POP
・ターゲット外の不特定多数にもリーチする
・オフラインから集客できる
・広告の効果検証が計測しにくい

リテールメディアの市場規模

小売企業が自社のメディアで広告枠を設けるリテールメディア自体は2010年代初期頃からありましたが、それらの成果が高まることで、今やこれからの広告市場を牽引していくほどの勢いを持っています。
米投資ファンドのベインキャピタルの調査よれば、2022年に約9.4兆億円だったリテールメディアの市場規模は、2024年には約19.6兆円以上になると言われるほど、驚異的な成長が見込まれています。

リテールメディア先進国のアメリカと日本の市場の差

EC先進国でもあるアメリカは、世界のリテールメディア市場のおよそ半分を占めており、2025年にはTV市場を抜き去ると言われているほどです。
一方日本では、アメリカほどの規模ではないにせよ、リテールメディアの効果と市場は着実に上昇しており、2023年のリテールメディア広告市場は3625億円、2027年には9332億円に拡大する※と予測されています。
※=CARTA HOLDINGS リテールメディア広告市場に関する調査より

リターゲティング広告の代替策として注目されている

リテールメディアが注目されている理由として、Cookieの規制が挙げられています。 EUのGDPRやアメリカのCCPAなど、個人情報保護を目的としたCookieによる情報収集の規制が世界的に進み、日本でも2022年に改正個人情報保護法が施行され、規制強化の傾向にあります。
サードパーティCookieのサポートは、Safariではすでに終了し、Googleも2024年後半までに廃止するとしています。

一度サイトを訪れたユーザーを追跡して表示するリターゲティング広告はCookieを活用しているため、小売企業が所有する顧客の購買データを利用できるリテールメディアは、リターゲティング広告に代わる1on1マーケティングの手法として大きく注目されています。

リターゲティング広告の代替策として注目されている

購買行動におけるリテールメディアのメリット

リテールメディアは、メーカー・小売企業・消費者の全てにメリットのある三方良しの広告モデルと言われています。それぞれにどんなメリットがあるのかを下記で解説します。

メーカーのメリット

メーカーのメリットとしては、小売企業が持つ顧客データを活用し、ターゲティング精度が向上することが挙げられます。また、出稿した広告の効果を検証して精度が見直され、より確度の高い施策を打つことができます。
そういった広告のPDCAを回すことで、購買意欲の高い層への販促に資金を集中できることが最大のメリットです。

小売企業のメリット

小売企業にとって、リテールメディアは活用しきれていなかったオフラインデータを応用し、メーカーを出資者とした販路拡大・売上の向上が見込める新しいビジネスモデルです。
商品の売上以外の収入源を確保できるほか、効果的なプロモーションで、消費者に購買を促し、小売店舗の売上アップにも貢献します。

消費者のメリット

消費者にとっての日常的な情報収集や趣味で閲覧するコンテンツにおいて広告は付き物です。そんな中で、興味・関心の高い広告のみが表示され、最適なタイミングで表示されることは、購買体験の満足度を大いに高めます。
正しくターゲティングされたリテールメディアで、関心の低い情報配信が削減されることは「買いたい」という気持ちを阻害しない重要な要素です。

リテールメディアに取り組む流れ

リテールメディアで商品を宣伝したい場合、一般的にどのような手順になるかを解説します。

ターゲット・方針を明確にする

まずは宣伝したい商品のウリとターゲットを明確にしておきましょう。デザイン、機能性、価格帯、利用シーンのマッチするターゲットは、どんな媒体を通して商品を知り、何がきっかけで購買に至るのかというカスタマージャーニーを想定しておくことでターゲティングの方向性が明確になります。

広告配信する媒体の選定

広告を配信する媒体や方法は小売のサービスによって様々ですが、ターゲット層や商品の特性に合うものでなければ意味がありません。小売企業から提供される顧客の行動データをもとに、ターゲットの目に留まりやすい場所、時間帯、アプローチで配信する媒体を選びましょう。

リテールメディアに取り組む流れ

広告を配信

ターゲットにマッチした広告が配信できていれば、商品ページを閲覧する、お気に入り登録をする、購入するなど様々なアクションが期待できます。
サービスによってはクーポンを配布するなどもできるので、メディアごとの特性を活かしながら連動した広告キャンペーンを展開しましょう。

効果検証

広告の期間が終了したら、どのくらいの人に商品をリーチできたか、購入に至った確率、離脱したタイミングと原因などを細かく検証しましょう。検証の結果と考察をもとに次の広告施策を改善し、より効果を高めていくことができます。
成果目標のKPIの決め方や検証する方法については、下記の資料をご覧ください。

リテールメディアの事例

実際にどんなリテールメディアが成果を上げているのか、サービスごとの特徴と事例を紹介します。

Amazon

リテールメディアの最先進国であるアメリカでは、市場の約77.8%をAmazon.com,Inc.が占めており、米Amazonでは、リテールメディア事業が入るか入らないかで営業利益に約7,500億円以上の差が生まれています。

Amazon Adsでは、キャンペーン効果をリアルタイムで分析し、その結果を反映して施策を調整できる購買データを提供しています。また、独自のサジェスト機能を開発し、顧客の行動データを収集・分析することで、購買傾向を正確に把握しています。
実店舗で購買データを収集するテクノロジーにも注目されており、2018年に始めた無人店舗「Amazon Go」では、誰がどの商品をいくつ手に取ったか等を自動認識し、店を出るだけで決済完了する無人決済「Just Walk Out」や、ChatGPT形式の小売店向けのAI開発も進められています。

ウォルマート

世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートは、アメリカに4,700店舗以上を出店し、ECサイトも運営しています。すべてのチャネルの集客数は1週間で1億5千万人以上。Walmart Connectによるリテールメディア事業での売上は5100億円以上にも達しています。

店舗やECサイト上での購買行動を匿名のデモグラデータと結び付け、広告のターゲティングに役立つ購買データを広告主に提供しています。実店舗の少ないAmazonと違い、店舗内に設置したテレビ画面やセルフレジ画面に広告枠を設け、商品の実演販売やサンプル配布など、対面の強みを活かしたサービスとなっています。

ZOZOTOWN

日本の大手アパレルECモールであるZOZOTOWNでは、2024年3月期通期決算にて、リテールメディア事業の売上高が25.3%増加しています。
検索連動型の広告システムであるZOZOADは、顧客が検索したキーワードに関連する広告出稿商品を上位表示させることができます。ZOZOTOWNに出店している事業者のうち6割以上がZOZOADを活用し売上を向上させています。

足のサイズや形を正確に測定できるZOZOMATや、肌の色をAIが診断するZOZOGLASSなど、アパレルならではのパーソナルな情報を保有しているため、ターゲティングの精度が非常に高いことも特長です。
また、ZOZOADは、チラシやサンプルを同梱できるプランもあるため、オンラインの小売企業でありながらリアル店舗のようなプロモーションを実施することも可能です。
ZOZOTOWN

ShopifyのECのみが使える「Shop Campaigns」と「Shopify Audiences」

ECプラットフォームのShopifyは年間流通総額が35兆3,865億円を突破し、1年間で6億7500万人以上がShopifyのECで商品を購入しています。世界175カ国以上で利用されているため、様々な地域の有用な購買データを保持しています。
※1ドル=150円換算
Shopifyを利用するEC事業者は、主にD2Cビジネスが中心となっていますが、リテールメディアに近い形で広告を出稿できる、「Shop Campaigns」と、「Shopify Audiences」があります。どちらも現在はアメリカ・カナダのShopify Plusプランを利用しているEC事業者のみですが、リテールメディアの需要が高まるにつれて全世界的に広がっていくことが期待されます。

Shopアプリ内でオンサイト広告を配信

ShopifyのECが集められたモール型のアプリ「Shop」で、Shop Campaignsというプログラムを利用してアプリ内広告を出稿することができます。Shop Campaignsでは、Shopアプリで利用できるポイントプログラムであるShop Cashを使うように促すShop Cashオファーと、新規集客のための外部サービスの広告があります。
Shopアプリは一般的なECモールと違って自社ECと直結しているので、その後の1to1マーケティングも可能です。

Shopアプリについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。

Shopify Audiencesでオフサイト広告を配信

Shopify Audiencesでは、ShopifyのECで行われた購買データを使って、Meta、Google、Criteo、Pinterest、Snapchat、TikTokに出稿する広告のカスタムオーディエンスリストを作成できます。その効果は、ターゲティング対象になるユーザーを2倍増加し、顧客獲得コストを最大50%削減させることに成功しています。

購買データのソースはShopify Audiencesを利用しているECサイトのみとなっていますが、Shopify PlusプランのECサイトに限定されているため、その取引規模を考えると、十分成果を期待できるデータ量であると考えられます。

D2Cの自社ECにもリテールメディアは効果的?

商品を自社で販売し、購買データを保有するD2Cのビジネスモデルでも、リテールメディアを活用することでブランドの認知度や売上向上に効果があります。

集客力のあるモールの購買データを得られる

D2Cなら、自社で顧客のファーストパーティデータを取得してターゲティングした広告配信まで完結できますが、あくまで自社が集客した分のみです。
月間数百万以上の顧客が訪れる大規模な小売企業の購買データであれば、自社だけでは獲得できない潜在層にも広告を届けることができるため、新規客の拡大に期待できます。

また、リテールメディアで得られた購買データを参考に自社でも広告を配信すればCV率の改善につながるでしょう。ブランディングができる自社ECと集客に強いモールECの両輪で展開することで、更なる売上拡大を狙うことができます。

広告運用のデータが無くてもテストマーケティングができる

広告施策のPDCAを回すためには、考察の材料となるデータが不可欠です。とは言え広告運用をスタートしたばかりではあまりデータも溜まっていないため、どこを改善すればよいのか苦戦することも多いでしょう。
リテールメディアなら、前述のとおり膨大な購買データを提供されるため、改善の仮説を立てやすく、新たな施策のテストマーケティングもしやすくなります。

実店舗が無くてもオフラインから集客できる

ショッピングセンターを所有もしくは提携している小売企業なら、デジタルサイネージや店頭POPなどを通じてオフライン環境からもターゲットにアプローチすることが可能です。
クリエイティブに検索キーワードや、キャンペーンLPのQRコードを入れておくことで、実店舗を持たなくてもオフラインから自社ECへ直接集客できます。

実店舗が無くてもオフラインから集客できる

進化し続けるリテールメディアを活用し、自社ECに還元する

リテールメディア市場は日々進化と拡大を続けていることから、今後は既存の媒体を連携させるだけではない新しいアプローチが出てくるでしょう。D2Cブランドでも、リテールメディアを上手く活用していくことで、新規客を獲得してブランドの顧客に育てることができます。

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