訪日外国人観光客によるインバウンド消費が増加するなか、日本国内の売上を越境ECへ繋げようという動きが出ています。今回は、インバウンド需要と、日本ファンに向けた海外へのECマーケティングの関係について紹介します。
EC市場におけるインバウンド需要とは
2023年、日本の訪日外国人旅行者はコロナ流行前の勢いを取り戻し、2500万人を超えました。2024年の月ごと集計では、6月は過去最多となり、4か月連続で300万人超えと大幅に増加し、過去最高の2019年を更新する見込みです。*1
このような、外国から国内に向けて入ってくる流れを「インバウンド」と言い、最近ではインバウンド需要、インバウンド観光客などいう言い回しも定着してきました。逆に国内から外に向けての動きは「アウトバウンド」と言います。
ECにおいても、外国から国内ECへの購入がインバウンドECと呼ぶことができそうですが、一般的にはこれが越境EC(ボーターレスEC、海外通販などとも)と言われるものです。
*1=JNTO 訪日外客統計
外国人観光客の買い物需要が越境ECにも影響
今、ECでインバウンドが注目される理由は、日本の商品を購入するきっかけが観光などでの訪日経験となっていることです。
以前は、家電製品やブランド品などを「爆買い」するパワーのある中国人観光客が話題になりましたが、一時期は、体験を買う、モノ消費からコト消費とも言われていました。
ところが現在は、急速に円安が進み外貨が有利になっていることや、コロナ後の旅行需要などから、日本でのショッピングが再熱し、2024年5月の全国百貨店売上高のうち免税売上は、前年同月の約3.3倍まで伸びました*2。また、ドラッグストアなども化粧品や医薬品、健康食品がインバウンドで伸びています。*3
このような流れから、日本で購入した商品を自国から再購入したい、日本で見たものを自国に戻ってから購入したいと考える人が増えているのです。抹茶や日本茶などの日本ならでは食品やお菓子であれば、一度日本で買って、気に入ればまたでECで買う、いった流れがあります。
また、アジア圏では上位に入ってこない工芸品や伝統工芸品、日用品など比較的高額の商品が、欧米からの人気で伸びているといったこともトレンドです。
*2= 日本百貨店協会プレスリリースより, *3=株式会社True Dataのプレスリリースより
越境ECも展開している日本茶ブランドの事例については下記の記事をご覧ください。
旅のリサーチはSNSなどインターネットがメイン
訪日前のリサーチもいまではインターネットが中心です。興味のある分野や地域にあるお店を調べたり、観光関連の動画を見たり、SNSでインフルエンサーや外国語で紹介されている情報をもとに、日本で観光・購買を行います。
ECサイト以外にも実店舗がある場合は、来店のきっかけづくりのためにSNSなどが役立ちます。そして、SNSにつながった顧客とエンゲージメントを高めることでECでの購入も発生しやすくなるという、ECとインバウンドは、まさに循環関係にあります。
この際、観光客が参考にしているのは、英語や自国語で発信されているコンテンツです。日本国内で人気のインフルエンサーやサイトとは必ずしも同一ではないことに注意しましょう。
インバウンドが伸びたあとに越境ECが伸びる
インバウンドECの需要に関しては、実際に、JETROの調査でも「日本に旅行をしたときに購入して気に入った商品だから」と答えた消費者が一定数いること、「訪日したあとに商品をリピート購入したい」と答えた人が8割だったことから、訪日後は越境ECの利用が伸びる傾向にあります。*4
*4=令和4年度 電子商取引に関する市場調査
各国で人気のECプラットフォームについては下記の記事をご覧ください。
日本のインバウンド需要が増えている背景
インバウンド需要の伸びは、コロナ前からでしたが、コロナ後の旅行ブームに乗ってその需要は加速しています。人口減少が進むなかで、日本政府はインバウンドの成長を強く推進しており、2030年までに訪日外国人旅行消費を15兆円にまで成長させる目標を掲げています。
円安でモノを買いやすい経済圏になっている
インバウンド観光客と越境ECの相関性から訪日外国人旅行客が増えるほど、越境ECは増えると考えられますが、それに拍車をかけているのが現在の円安基調です。1ドルは2018年の104〜114円に対して140〜160円程度と4割ほど上がっており、逆に言えば日本で消費する場合は自国より4割程度も安く購入できる可能性があるということです。家電やブランド品などは、インフレが強い国と比較すれば半額程度になる可能性もあります。
つまり、現在日本は何を買ってもお買い得な状態にあるため、これまでは高額な購買を控えていた層も消費が増えていると考えられます。
日本の製品は世界で根強い人気がある
現在の日本への観光客には、マンガやアニメといったカルチャー、日本食などが人気なのは知られていますが、日本製品もまだまだ世界で人気です。
人気の理由としては、「安全である」「エコである(環境にやさしい)」「品質が良い」「デザインが良い・かわいい」「画期的」「高級品」などの意識で評価されており、まだまだ日本製品のブランドは人気があると言えます。
購買人気の高い商品ジャンルとしては、化粧品、お菓子、酒類などの食品、健康食品、鞄革製品、衣類、民芸品、健康グッズ、音楽・映像・ゲームなどがあげられます。
インバウンド需要を活用したEC販売施策とは?
インバウンドのピークの少しあとに越境ECのピークの波が来る傾向があり、インバウンドが盛り上がったら越境ECも売上増加に備える、という考え方がよいようです。
インバウンド需要に対するEC販売施策としては、帰国後を想定したフォローアップ施策や、外国人観光客向けの専用コンテンツを発信するなどが主流となっています。
来店した外国人観光客にECサイトへの訪問を促す
実店舗がある場合には、店舗に来店した外国人観光客に直接アプローチができます。店頭に外国語のパネルやポスターなどを用意して、お店や商品の内容、決済方法などを紹介したり、Instagramなどの公式SNSへ誘導します。常設店舗がなくても、POPやイベントでの出店で接点を持てることもあるかもしれません。
カタコトで話すよりも、スマホで調べたほうが確実なのはどの国の人でも同じです。QRリンクから詳細ページや外国語の説明が読めるようにするなど、様々な国の人が直接情報を取れるような配慮をすると親切です。
商品が購入された場合は、ECサイトやSNSの告知を含むチラシや宣伝カードなどを同梱したり手渡しましょう。業種や商材によっては、ブランディングを伝えるパンフレットや商品カタログなども有効でしょう。
なお、購入されなくとも、商品の写真やお店の写真などをSNSでシェアOKだということを多言語で伝えるようにしておくと、UGCとして宣伝につながるのでおすすめです。
購買客にアンケートを実施し流入ルートを確認
商品を購買した外国人観光客のなかには、目的をもってお店を訪れた人も含まれるかもしれません。どうやって自分のお店を訪問したのか、知ったのか、どのようなものが買いたいかなどを可能であればアンケートしてみるのもおすすめです。
とくに外国からの流入元のきっかけは、日本からは未知な部分も多いので、どんなSNSやメディアで知ったのか、キーワード検索のワードなどが聞けると、越境ECマーケティングの参考になります。
SNSを活用する
訪日する際に参考になった情報の上位は、動画サイト、個人ブログ、日本の観光局ホームページ、クチコミサイト(トリップアドバイザーなど)に加えSNSなどがあがっています。*5
動画サイトの人気は高く、YouTubeやTikTokの動画を参考にしているのではないかと考えられます。日本に在住している外国人による観光ガイドなども人気です。
自社で発信するならば、InstagaramやFacebookなど、テキストでコミュニケーションをとれるものがいいでしょう。多言語や英語でリアルタイムの会話をするのは難しいですが、「いいね!」やテキストメッセージへの対応ならば、自動翻訳を使って対応しやすいです。
また、欧米を中心にSNS広告から商品を買うという層が増えており、国によっては商品探しの際、ネット検索と同程度以上となっています。その意味でもユーザーのセグメントからSNS広告に力を入れることで得られるメリットです。
*5=訪日外国人の消費行動2023年年次報告書
インバウンド需要に必要な越境ECサイトの構築
訪日外国人に、帰国してからオンラインで購入をしてもらうには、越境販売に対応したECサイトが必要です。ECは公開されていれば、論理上は世界中からアクセスできるのですぐにでも購入してもらえるかも?と思うかもしれませんが、越境販売のための準備が整っているECでないと、なかなかそうはいきません。
多言語対応を行っている
まずサイトの言語対応です。日本語サイトのままでショッピングをしてもらうというのは、日本語ができる外国人が少ないことを考えると相当ハードルが高くなります。最低限でも英語、そして一般的には購買層の多い中国語(簡体/繁体)、韓国語などに対応できるとよいでしょう。
商品説明はもちろん、ブランドコンセプトや、ポリシーなどお店を知ってもらうための情報を多言語で伝えることも重要です。
対象の国でよく利用されている決済サービスの導入
日本ではクレジットカードやQR決済などのデジタル決済が普及し、ECサイトでもクレジットカード利用が多いですが、ECで利用率の高い決済サービスの種類は各国の事情により異なります。
例えば、東南アジアではクレジットカードを持っていないという層も多く、人気の決済方法が電子マネーや銀行振込です。ヨーロッパでも、ドイツはクレジットカードがあまり人気がなく銀行振込が好まれます。なるべく購入率を上げたいならば、顧客層の好む決済方法が準備されていることが求められます。
各国に対応した配送オプション
ECサイトでは、配送先に各国の住所が指定できる状態にしなければなりません。よく郵便番号を入れると自動的に住所が入力されるシステムがありますが、日本国内にしか対応していません。各国名、州、住所などを入力して正常に配送先に指定、かつ、配送方法を選択後、適切な配送料を設定して購入に進めるようにします。
さらに、商品によっては関税がかかることがあります。商品を送っても、関税の支払いが後払いのために税関で商品が止められてしまったりもします。また、商品受け取りのサインの有無なども配送方法によって違い、配送ミスが多い国ではサインを取る配送を選ぶほうが確実だったりします。
インバウンド需要向けの越境ECサイトにはShopifyがおすすめ
ここまでの準備の話で、海外に商品を売るのはオンラインでもけっこう大変そうだ、と思われたかもしれませんが、ECプラットフォームShopifyは越境EC向けの機能が数多く揃っているので、簡単に越境ECを始めることができます。
世界175か国以上で使われているため各国対応が容易
Shopifyは、カナダ発のECサイトの作成・運営が行えるサービスで、アメリカでD2Cの独自サイトといえばShopifyというくらいに、多くのECサイトで利用されているプラットフォームです。
世界175カ国以上で利用されているだけあって、世界中の言語や在庫管理・配送・税制といった各国の物理的な事情にも対応しやすく、越境ECサイトに強みがあるプラットフォームです。これほど多くの国別環境に対応できるのは、Shopifyが「アプリ」によって機能を追加・連携できるしくみを備えているためです。アプリは汎用性が高く、無料・低価格のサブスクで追加でき、ECサイトの開発コストや、機能追加によるトラブルを最小限に抑えて越境ECを開始できます。
Shopifyの越境EC向けアプリについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
コンテンツのローカライズが容易にできる
Shopifyには「マーケット(Shopify Markets)」という機能があり、販売したい国や地域を追加して設定が行えます。プランにより選択できるマーケット数は異なりますが、3〜50マーケットを利用できます。
コンテンツや商品情報を各国語にローカライズするときは、「マーケット」を追加して地域や言語を選択し、アプリなどを使って情報を自動翻訳できます。もちろん、手動で翻訳することもできます。アクセスされた地域によって表示するページの言語を出し分けできる越境ECサイトがすばやく始められます。
Shopifyペイメントを始め海外で使われる決済が利用しやすい
Shopifyは100種類以上の決済方法に対応しています。Shopifyですぐに使える「Shopifyペイメント」だけで主要クレジットカードに対応でき、AmazonPayやPayPalのような世界で利用者の多いオンライン決済へ対応することもできます。
それ以外にも、各国特有の決済方法に対応するために、アプリを使って決済方法の拡張が可能です。
例えば、日本でも利用できるKOMOJUを使うと、クレジットカード、コンビニ決済、銀行振込、各種の後払い、プリペイド決済、デジタルウォレット、キャリア決済などに対応できます。
ほかにも、ShopifyにはとShop Payいうしくみが提供されており、いわばShopifyをモールのように見たて、Shopifyを利用しているECサイトなら、1つのIDとパスワードでクレジットカード決済が完了できるしくみがあります。住所登録なども完了しているためスピーディーでスムーズが購入ができ、ユーザーにとっては使い勝手がよくて安心、EC側にとってはカゴ落ちを防ぐ効果もあります。
Shopifyは、海外配送の設定が簡単
Shopifyは海外配送の設定や手続きにも対応しており、複数の言語、商品価格、配送料を設定できます。「マーケット(Shopify Markets)」で販売したい国や地域を追加して設定が行えます。
さらにGlobal-eのような越境EC支援サービスと契約すれば、APIを使ったShopify連携で、各国の税制や配送など様々な決済・物流業務を外注化しつつ越境ECにチャレンジすることもできます。
Shopify Plusでは別ドメインを運営することも可能
越境ECサイトには、1サイトで多言語に対応するサイトの運営方法と、言語や地域ごとにサイトを分ける方法があります。1サイトにまとめた方が管理面で手がかからないメリットはありますが、越境ECでより成果を上げたい場合、地域ごとにサイトを分けて別ドメインで運営するほうがSEO的にもマーケティング的にも特化できるため、おすすめです。
Shopifyの契約プランには、より売上が高いサイト向けで利用されるShopify Plusというプランがあり、このプランでは同一ブランドで10サイト、50個のマーケットまで同時運営することが可能なので、本格的な越境ECへ取り組む場合に向いています。
販売チャネル(SNSなど)を容易に追加できる
海外でよく使われているFacebookやInstagramなどのSNSを使った広告、販売チャネルをShopifyではすぐに追加できます。SNS広告から直接商品を購入するユーザーが多いため、越境ECでは積極的に取り組むとよい施策です。
ShopifyとInstagramの連携については下記の記事をご覧ください。
今後はManaged Marketsでコンプライアンス関連はShopifyに任せられるかも
現在はShopifyのアメリカ契約でのみのサービスですが、越境ECを支援する拡張機能としてManaged Markets(旧:Shopify Markets Pro)が開始しています。
Managed Marketsは、決済手数料6.5%を加えることで、越境ECで手間となる税金、関税の計算と徴収、現地での決済・配送などの手配を委託できるサービスです。サービスには関税の前計算と決済時の同時徴収、為替機能、各国税制や法への遵守が含まれ、商品はDHL Expressで配送されます。このサービスは、Global-eとの提携で行われています。
日本では現在はGlaobal-eと別途契約することになりますが、今後はShopifyからプランを簡単に追加できるようになるかもしれません。
インバウンド向けECを運用する際の注意点
インバウンド向けECについて、需要の兆しから越境ECサイトの運営についてまで紹介してきました。早く始めたい!と思われるショップも多いのではないかと思いますが、いくつか事前に気を付けるべきことをまとめておきます。
高額な関税や販売制限が国ごとに異なる
輸入品に関しては、各国がそれぞれのルールがあり、EUなどの大きな枠組みでのルールもあります。一例を挙げれば、アルコールを輸入できない国があります。カナダは酒類輸入は専売公社を通さないとなりません。
また、国や製品の種類によって、関税や付加価値税がかかります。電子機器やブランド品、化粧品などは関税が高い傾向にあり、荷物の受け取り時に支払いが必要になったことで、商品の受け取りを拒否してしまうケースもあると言います。このようなトラブルや損失を防ぐには、自社製品の税制について調べ、関税がかかることなどをよく理解してもらったうえで販売する必要があります。
国際的なルールやサイトのポリシーも見直しておく
EU圏内のユーザーがアクセスするサイトではGDPRに対応しなければならないなど、サイトを運営するだけでも国際的なルールを守る必要が出てきます。プライバシーポリシーやキャンセルポリシー、サイト運営のポリシーについても、問題が起こる前に日本語だけでなく現地の言語で掲載しておきましょう。
配送方法も各国様々な事情を事前に把握
商品が紛失してしまう、届かないといったトラブルは日本よりもはるかに多いため、リスクを考慮した対応も考慮しましょう。国際宅急便や国際郵便など日本でも馴染みの配送サービスに加えて、各国ではどのような配送が安全で人気があるか把握しておくとよいでしょう。荷物が届かなかったり、紛失してしまうなどすると利益を生むはずが、たびたび損失を与えることになってしまいます。
越境ECのサイトの設定や運用面でも不安があればプロに相談しよう
世界へ向けてインバウンド需要をECで伸ばすために、Shopifyは非常に便利なツールです。グローバルなマーケットでの利用を前提に開発されており、多言語対応、他国通貨対応が可能です。しかし、実際に販売する段階では、さまざまな物理的な作業や注意点があることもわかります。運用担当者には慣れない商習慣や法律の問題などが大きく負担としてのしかかってくるかもしれません。
そこで、自社のノウハウとして中核とならない業務は外注化を考えたり、パートナーシップでより早く海外販売を起動に乗せることを優先するほうが効率的です。
BiNDecでは、日本有数のShopify Plusパートナーとして、越境ECの構築・運用支援を行っています。ぜひお気軽にお問い合わせ下さい。
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