AI技術の進化とともに、EC運営のあり方も大きく変わりつつあります。競争が激化するEC市場で顧客の心をつかむためには「優れた購買体験」を提供することが重要ですが、AIベースの顧客サービスである「AI接客」は、顧客が求めるパーソナライズされた体験を実現し、企業の売上やブランド価値を向上させるうえで有力な手段となってきました。
しかし、「AI接客」と聞くと「導入のハードルが高そう」と感じたり、「機械的な対応で顧客満足度が下がるのでは?」という不安に思う方も少なくないかもしれません。
本記事では、AI接客の基本やメリットはもちろん、デメリットとその解消法、Shopifyとの連携で効果を最大化する方法までをわかりやすく解説します。成功事例を通じて、実践するためのヒントを掴んでください。
EC業界で注目されるAI接客とは?
AI接客とは、従来の人間による接客業務をAI技術で代替または補完する仕組みを指します。特に、ECサイトや実店舗における顧客対応の効率化によって、ビジネスを成長させる手段として注目されてきました。
その背景には、人手不足や人件費の上昇があります。店舗やカスタマーサポートの現場では人手不足が問題となっており、働き方改革の一環としても、AI接客による定型業務の自動化によって、従業員の業務負担を軽減し、より重要な業務に集中できる環境を整えることが急務となっているのです。
加えて、AI接客は年中無休で顧客対応が可能であり、営業時間外の問い合わせにも応えられます。そして、多言語化も容易に行えるため、外国人顧客に対するサポートが容易になるというメリットもあるわけです。
また、AI接客は、顧客との直接的なやり取り以外にも、好みに合わせた商品のおすすめやキャンペーンの案内などの販売促進にも活用できます。AIは、顧客の購買行動の履歴の分析能力にも優れ、それに基づくパーソナライズされた情報を提供できるため、顧客満足度や売上の向上に貢献することができるのです。
EC運営の負担を軽減する生成AIサービスについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
主な用途と具体例
AI接客は、冒頭で触れたように主に顧客対応や業務効率化のために導入されていますが、その用途は多岐にわたります。
まず、直接的な顧客対応でAI接客が力を発揮するのは、問い合わせへの回答、買い物サポート、ECサイト内での接客、顧客とのやり取りの多言語化などです。
問い合わせへの回答 | AIチャットボットが顧客からの質問や問い合わせに自動で対応することで、カスタマーサポートの負担を軽減しつつ、24時間365日の対応が可能になる。 |
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買い物サポート | AIチャットボットが、ECサイト上で顧客の相談にのり、要望に応じて商品選びをサポートする。 |
ECサイト内での接客 | AIベースのアバターが接客係となり、声やジェスチャーを交えて、よりリアルに顧客の応対にあたる。 |
顧客とのやり取りの多言語化 | AIが任意の言語で接客を行うため、外国語に精通した従業員がいなくても、インバウンド客に対応できる。 |
また、業務効率化のためにAI接客が活躍するのは、実店舗での受付・案内、飲食店での配膳、マーケティングなどのための情報収集、業務の自動化などです。
実店舗での受付・案内 | AIベースのロボットが受付業務を行ったり、顧客を目的のコーナーまで案内する。 |
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飲食店での配膳 | ロボットが料理を配膳して従業員の負担を軽減する。 |
マーケティングなどのための情報収集 | AIが顧客との対話や行動履歴などのデータを収集し、企画立案に役立てる。 |
業務の自動化 | 在庫確認や注文処理などの定型的な作業をAIに任せることで、従業員にはより高度な業務に集中できる。 |
これらの例からわかるように、AI接客は、顧客とのコミュニケーションを円滑にするだけでなく、従業員の負担を軽減し、業務効率を向上させるうえで重要な役割を果たします。また、顧客満足度を高めるうえで有効なのは、サービス品質の均一化や24時間対応が図れるという点です。
AI接客の必要性とメリット
先に触れたように、AI接客は、EC市場の急成長と競争激化をはじめ、多様化する顧客ニーズ、人手不足と業務効率化の課題、そして24時間365日対応の必要性などへの対応策として注目されていますが、それぞれの点について、もう少し詳しく説明しておきましょう。
EC市場の急成長と競争激化
EC市場は急速に成長しており、競争も激化しているため、EC事業者は競合他社との差別化を図るうえで、顧客体験を向上させる必要に迫られています。
そのために重要なのは、一人ひとりに合わせてパーソナライズされた接客を提供することです。この点で、AI接客は、個々の顧客の行動履歴や購買履歴に基づいてニーズに合った商品提案ができるため、購買意欲を高めて売上向上に貢献できるメリットがあります。
多様化する顧客ニーズ
近年の顧客のニーズや価値観は多彩なものになっており、接客もそのように多様な好みを迅速に汲み取って、柔軟に対応することが求められています。この点でも、チャットボットによるAI接客は、顧客からの質問に対して即座に適切な回答を提供できるので、疑問や不安を解消するのに役立つ存在です。
また、アバター接客は、対面接客の安心感もありながら、人間の店舗スタッフが直接対応するよりも、顧客に気軽に利用してもらえます。さらに、海外やインバウンド客のニーズに応えるうえでも、多言語化が容易なAI接客は欠かせない要素となるでしょう。
人手不足と業務効率化の課題
多くの企業が人手不足に悩む中、AI接客は定型業務の自動化に不可欠なソリューションとなりつつあります。
AIチャットボットも、ロボットによる作業代行も、従業員の業務負荷を軽減して限られた人的リソースを有効に活用するうえで役に立ち、ECサイトや実店舗の運営の効率化に貢献することが可能です。
24時間365日対応の必要性
顧客がECサイトに期待するのは、時間や場所に縛られることなく、商品を購入したり問い合わせができることです。しかし、ショップ側で営業時間外の問い合わせに対応するために人員を配置してしまうと、運営コストアップにもつながり現実的ではありません。
AIチャットボットは、導入の初期費用や運用に必要な費用がかかるとしても、長い目で見れば専任スタッフを置くよりも安価に顧客満足度を上げることが可能です。ただし、AIでは対応が難しいこともある点を考慮し、必要に応じて営業時間内に問い合わせてもらうことを促すメッセージを提示しておくことも忘れないようにしてください。
AI接客のデメリット
このようにAI接客には様々なメリットがある一方で、デメリットも存在します。たとえば、導入や運用にそれなりの費用がかかること、過去に例がないイレギュラーな事態への対応が難しいこと、顧客によってはAI接客を好まない場合があることなどです。
そのため、自社のニーズや顧客層に合わせて、適切なソリューションを選択し、導入後も継続的な改善を行っていくことが重要になります。以下に、個々のデメリットについてもう少し掘り下げ、その解決策も紹介しておきましょう。
導入や運用の費用がかかる
AI接客のために実店舗へのロボット導入を行うような場合には、初期費用に加えて保守・運用・メンテナンスなど、それなりのランニングコストがかかります。また、AI接客の領域やレベルを変える際にも、新たなデータ学習や設定変更のための費用を考慮しておくことが必要です。
想定外の出費を招かないためにも、AI接客の導入にあたっては事前に費用対効果を詳細に検証しておくことに加えて、最初は小規模な導入から始め、効果を見ながら徐々に適用範囲を拡大していくことが求められるでしょう。
また、DXの一環としてAI接客を導入するのであれば、該当する公的な補助金や助成金を活用することで、初期費用を軽減できる場合があります。
イレギュラーな事態へ対応が難しい
AIは、学習したデータに基づいて対応するため、マニュアルにないようなイレギュラーな事態への対応が苦手です。トラブル対応や顧客からの感情的なクレームなど、過去のデータにない状況には、効果的な対応が難しく、顧客満足度の低下につながるリスクがあります。
こうしたリスクを避けるために、AI接客で対応できないケースに関してスムーズに有人対応に切り替えられるように、担当者との連携体制を整えておくと安心です。
また、システムの負荷を低減するうえで、顧客自身である程度の問題は解決できるように、よくある質問やトラブルシューティングに関する情報を、あらかじめFAQとして提供しておくことも心がけてください。
AIに対して好意的ではない顧客もいる
これは致し方ないことですが、すべての顧客がAI接客を好むわけではありません。機械的な対応に冷たさを感じたり、対人接客でないと不安を感じる顧客もいます。顧客の年齢層や属性によってもAI接客に対する需要度は異なるため、慎重な判断が必要です。
そのため、AI接客の導入にあたっては自社の顧客層の特性を分析し、場合によりアンケートを取るなどして、AI接客が受け入れられるかどうかを検討したり、AI接客と有人接客の両方を提供し、顧客が自分の好みに合わせて選択できるようにすると良いでしょう。
もちろん、AIの進化の速度を考えると、AI接客のインターフェースや応答もこれからより改善され、より人間らしく温かみのある対応になっていくと思われますし、顧客に対してAI接客の目的やメリットを丁寧に説明し、理解を得るように努めることも大切です。
その他の注意点
この他にも、AI接客システムは、顧客の個人情報や機密情報を扱うため、セキュリティ対策が徹底されているものを利用する必要があります。また、システムのトラブル対応やデータ更新などに関して、専門的な知識を持った人材が必要となる場合があるかもしれません。
いずれにしてもAI接客は、すべてのAIサービスがそうであるように、あくまでもサポートツールです。過度に依存することなく、人間の判断も重視して柔軟な対応を心がけてください。
AI接客の導入ECサイト事例
AI接客を導入して成功しているECサイトの事例としては、次のような企業やブランドがあります。
Soup Stock Tokyo
全国に60以上の店舗を展開するレストランチェーンのSoup Stock Tokyoは、Shopify Plusを活用してECサイトをリニューアルしました。
そして、AIを活用した顧客データ分析により、個々の顧客に合わせたマーケティング施策を実施し、顧客満足度の向上と売上増加を達成しています。
オリオンビール
沖縄を代表するビールメーカーのオリオンビールは、Shopifyを活用してECサイトを刷新しました。さらにAIによる顧客行動分析を通じて、商品ラインナップの最適化やプロモーションの効果測定を行い、県外からの購入者の増加と売上拡大に成功しています。
Allbirds
サンフランシスコ発のスニーカーブランドであるAllbirdsは、ShopifyのAI機能を活用して顧客体験を向上させました。実店舗ではShopify POSを導入することで顧客が試着後すぐに商品を購入できる環境を整備し、在庫やサイズ、色の確認をスムーズに行えるようにして顧客満足度を高めています。
温かみのあるAI接客のポイント
どのようなAI接客を行うにしても、顧客に「機械的で冷たい」と感じさせてしまうリスクは避けなければなりません。そのためには、AIらしさを排除する人との連携、個別対応の充実、対話デザインへの配慮といった点に気をつけて、AI接客を温かみのあるものにすることが大切です。
AIらしさを排除する人との連携
たとえば、複雑な対応やクレーム処理をAIに任せず、人間の担当者が行うことは大変重要です。あらかじめ「詳細なご案内は担当者が行います」などの告知があるだけでも、顧客が受ける印象は異なり、安心感を与えられるでしょう。
また、顧客とAIとのやり取りの履歴を記録し、顧客が担当者に同じ説明を繰り返さずに済むようにすることも必要です。
個別対応の充実
逆に、AIの強みは顧客一人ひとりに寄り添った対応を行える点にあるので、パーソナライズされた情報を積極的に提供すると良いでしょう。
たとえば、購入履歴や閲覧履歴から、個々の顧客のニーズに合わせた商品提案を行ったり、「先日ご購入いただいた[商品名]のご感想はいかがですか?」などの個別のメッセージを送ることが効果的です。
最近では、文章や音声から顧客の感情を解析する技術の実用化も進んできており、そうした技術を利用して、顧客が抱いている感情に合わせて適切な対応を行うことも可能になってきています。
対話デザインへの配慮
同じチャットボットでも、対話デザインの違いによって受ける印象は異なります。チャットボットの回答のトーンやマナーをブランドのイメージと一致させることはもちろんですが、自然で親しみやすい言葉遣いを心がけ、顧客が積極的に要望や質問をしてくれる雰囲気を作り出すようにしてください。
ShopifyでAI接客を効果的に活用
世界で200万店舗以上がECサイトの構築に利用しているShopifyは、AI接客のためのツールも提供しています。その中から、主要な4つについて紹介しておきましょう。
Shopify Search & Discovery
オンラインストア内の検索機能や商品発見のプロセスを最適化するツールです。AIが顧客の検索履歴や行動パターンを学習し、各顧客に最適な商品を表示することで、顧客の購買体験を向上させます。
主な機能は以下のようなものです。
パーソナライズされた検索結果 | 顧客の過去の検索履歴や閲覧履歴を基に、関連性の高い商品を優先的に表示 |
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動的な商品おすすめ | 顧客の興味や購買履歴に応じて、個別にカスタマイズされた商品を提案 |
検索クエリの理解 | AIが自然言語処理を活用して、顧客の検索意図を正確に把握し、適切な商品を表示 |
これらの機能により、顧客は求めている商品を迅速に見つけることができ、購入意欲を高められるため、コンバージョン率の向上や売上増加が期待できます。
顧客の求める商品を迅速に見つけるようにし、コンバージョン率の向上や売上増加が期待できる
Shopify Inbox
AIチャットボットを活用して、顧客からの問い合わせに自動応答するツールです。これにより、問い合わせ対応の効率化と顧客満足度の向上が図られます。
主な機能は以下のようなものです。
自動応答 | よくある質問や一般的な問い合わせに対して、AIが即座に回答 |
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人間の担当者への引き継ぎ | 複雑な問い合わせなどでAIで対応できない場合は、適切な担当者に引き継ぐ |
マルチチャネル対応 | EC上のチャットだけでなく、メールやSNSなど複数のチャネルからの問い合わせにも対応可能 |
これらの機能により、24時間体制での顧客サポートが可能となって顧客満足度が向上し、スタッフの負担軽減にも寄与します。
Shopify Flow
顧客の行動や特定の条件に応じて、自動的にマーケティング施策を実行するワークフロー自動化ツールです。これにより、効率的なマーケティング活動が可能となります。
主な機能は以下のようなものです。
自動化ワークフローの作成 | 一定額以上の購入など、特定の条件に基づいて、クーポンの発行やフォローメールの送信などを自動で実行 |
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在庫管理の自動化 | 在庫が一定数以下になった際に、仕入れ担当者に自動で通知 |
顧客セグメンテーション | 顧客の購買履歴や行動に基づき、自動的にセグメント分けを行い、ターゲットマーケティングを支援 |
これらの機能により、手動で行っていたマーケティング施策や管理業務が自動化され、業務効率が向上すると共に人的ミスの削減にもつながります。また、タイムリーな施策実行により、顧客エンゲージメントの強化も期待できるでしょう。
マーケティング施策や管理業務を自動化し、省力化と顧客エンゲージメントの強化が期待できるShopify Flow
Shopify Audiences
AIが購買意欲の高い顧客セグメントを特定し、広告キャンペーンの効果を最大化するツールです。これによって、より精度の高いターゲティングが可能となります。
主な機能は以下のようなものです。
オーディエンスの生成 | AIが過去の購買データや行動データを分析し、特定の商品やカテゴリに興味を持つ可能性が高い顧客リストを作成 |
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広告プラットフォームとの連携 | 生成されたオーディエンスリストを、FacebookやGoogleなどの広告プラットフォームにエクスポートし、精度の高いターゲティング広告を実施 |
パフォーマンスの追跡 | 各オーディエンスに対する広告の効果をモニタリングし、ROIの最適化を支援 |
これらの機能により、広告費用の最適化と高いコンバージョン率を実現し、マーケティング投資対効果(ROI)の向上が期待できます。また、新規顧客の獲得や再ターゲティングにも効果的です。
なお、現時点でShopify Audiencesツールを利用できるのは、アメリカまたはカナダに拠点を置く事業者のみですが、今後、利用可能国が広がるものと思われます。
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このように、AI接客はこれからのECビジネスの成長戦略に欠かすことのできない要素です。
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