2025年7月25日よりShopifyの利用規約が改定され、標準のメールアプリや商品検索機能などに「Shopify Network Intelligence」が導入されました。この新たなシステムの役割やメリット、注意点をまとめて紹介します。
Shopifyのデータ活用の新システム”Shopify Network Intelligence”
Shopify Network Intelligenceは、膨大な顧客データを集約・分析することで、個々のECサイトでは得られない強力なインサイトを生み出すShopifyの革新的なシステムです。
ShopifyのECで行われた商取引データを元に、ビジネスを最適化したり、より高度なマーケティング戦略を展開できるようになります。
世界中のECサイトの顧客データを安全に集約・分析
Shopifyは世界175以上の国と地域で利用されているECプラットフォームであり、年間で8億7500万人以上がShopifyのECで商品を購入しています。(*1)Shopify Network Intelligenceは、この全世界規模の膨大な購買データを安全に組み合わせてマーケティングを強化できる広範囲なデータ活用システムです。
データは匿名化され、高度なセキュリティ対策のもとで集約・分析されるため、特定のECサイトの顧客情報が他のECサイト運用者に共有されることは一切ありません。
個々のECサイトだけでは決して得られないような、マクロな視点での市場の動きや潜在顧客のニーズを深く理解し、自社のマーケティング施策に活用できるようになるのです。

2024年のShopifyの流通統計| *1=Shopify Investor Overview Deck – Q4 2024
インサイトから「Enhanced Services(高度な機能)」を提供
Shopify Network Intelligenceが生成する多角的なインサイトは、単なるデータ分析に留まりません。生成されたインサイトは、Shopifyが提供する標準機能や拡張アプリ、サービスに反映され、以下のように「Enhanced Services(高度な機能)」の基盤となります。
- ECサイトと顧客に向けた商品の改善およびパーソナライズの実現
- ECサイトのパフォーマンスを向上する
- マーケティング予算を最大限に活用するための広告ターゲティングの最適化する
つまり、Shopify Network Intelligenceは、膨大なデータを「知識」へと昇華させ、その知識をECサイトの成長を加速させるための「機能」として提供する、という強力なデータドリブンマーケティングのサイクルを生み出しているのです。
Shopify Network IntelligenceがECビジネスにもたらすメリットと変化
Shopify Network Intelligenceは、ECビジネスのあり方を大きく変革する可能性を秘めています。これは単なる機能アップデートではなく、データ活用の新たなフェーズへの移行を意味することになるでしょう。
データ格差がビジネスを左右する、競争優位性の再定義
これまでのEC市場では、独自の商品力やマーケティング戦略が競争優位の源泉でした。しかし、Shopify Network Intelligenceが普及することで、情報を独占して差別化するマインドはレガシーになっていき、今後は「いかにデータを活用し、深いインサイトを得られるか」が競争優位性を左右する重要な要素になります。
膨大な集合知にアクセスできるECサイトとそうでないECサイトの間で、マーケティング効率や顧客体験に大きな差が生まれるでしょう。
精度の高い予測と自動化の加速
Shopify Network Intelligenceは、8億人以上の購買データから得られるパターンを学習することで、顧客の購買行動や市場トレンドをより高い精度で予測できるようになります。
これにより、商品在庫の最適化、パーソナライズされたプロモーションの自動化、あるいは将来的な需要予測に基づく戦略的な意思決定に役立てられるでしょう。結果的にECサイトの運用担当者は、より本質的なビジネス戦略に集中できるようになります。
中小規模ECサイトの成長機会拡大
これまで大手企業でしか活用できなかったような大規模なデータ分析や高度なパーソナライゼーションが、Shopify Network Intelligenceを通じて中小規模のECサイトにも手の届くものになります。個々のECサイトのデータを補完する形で、広範囲な市場インサイトを得られるため、限られたリソースでもデータドリブンな戦略を実践でき、効率的に成長を加速させる機会が拡大します。
もちろん、コストをかけて大量のデータを収集・分析できる大手企業にとっても、新たなインサイトを得る機会としてメリットがあります。
Shopify Network Intelligenceが影響するアプリやサービス
現在、Shopify Network Intelligenceを活用することがわかっているアプリやサービスは以下です。具体的なアップデート内容は公開されていませんが、上記で挙げたパーソナライゼーションやパフォーマンスの向上に大きく期待できるでしょう。
Shopify メール
Shopify メールは、メールマーケティングアプリで、管理画面から直接メルマガの作成・配信が可能です。
複数のメールテンプレートが用意されており、ECサイトの商品や割引コードをドラッグ&ドロップして簡単にカスタマイズできます。メールの分析機能で開封率やクリック率などのパフォーマンスをチェックしたり、カゴ落ちやサンクスメールなどの顧客の行動をトリガーにオートメーション化できるテンプレートも揃っています。
Shopify メールには、AIに件名や文章を作文させたり、データに基づいてクリック率の高い時間帯で配信できる機能がありますが、Shopify Network Intelligenceが提供するインサイトを活用することで、それらの精度がさらに高まることも期待できそうです。
Shopify メールについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
Shopify Search & Discovery
Shopify Search & Discoveryは、ECサイト内での商品検索やレコメンド機能を強化できるアプリです。
商品検索のロジックをカスタマイズしたり、フィルター(絞り込み)を柔軟に設定したり、「この商品を見た人はこんな商品も見ています」といったレコメンドも実装できます。
検索データやクリック数の分析機能も備えているため、Shopify Network Intelligenceから得られる検索行動のデータがナレッジとして加われば、さらに深い分析ができるようになり、ECサイトのUI/UX、ひいてはCV率向上に貢献してくれるでしょう。
Shopify Collabs
Shopify Collabsは、インフルエンサーやクリエイターとのコラボを支援するアフィリエイトの管理機能です。
ブランドに興味を持つクリエイターが応募できる専用ページを設けることができ、コラボ依頼、報酬の設定、リンクの発行、成果のトラッキングまでを一元管理できます。
ECサイトと連携して商品情報や販売状況を自動反映されるため、ブランドのファンマーケティングに有効なツールです。Shopify Network Intelligenceから得られる広範な購買データや顧客行動のインサイトは、ターゲット層にリーチするのに最適なクリエイターを特定するのに役立つようになりそうです。
日本のインフルエンサーも多数登録されていますが、現在の対応言語は英語のみです。
Shopチャネル
Shopチャネルとは、Shopifyで構築されたECがモールのように集結したスマホアプリ「Shop」に自社商品を掲載し、販売できるチャネルです。
Shopアプリを利用する顧客に対して、パーソナライズされた商品提案や通知を送ることができ、配送のリアルタイム追跡や購入履歴の確認など、顧客体験の向上にも貢献します。
Shopは毎年の新機能発表イベントで毎回ラインナップされているほど開発が活発です。チャットベースで希望に沿った商品を提案してくれるAIエージェントも搭載されているので、Shopify Network Intelligenceの活用により、世界中のECサイトが集うShopアプリ内でもスムーズに商品を発見し、購入に至るまでの導線も最適化されるでしょう。
Shopアプリについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
Shopify Audiences
Shopify Audiencesは広告のターゲティングをサポートする機能で、Meta、Google、Criteo、Pinterest、Snapchat、TikTok向けに自社のターゲット層に適した高精度オーディエンスを作成可能です。
世界中のShopifyのECサイトで収集された購買データを元に、購入見込みの高いユーザー群を自動生成するため、Shopify Network Intelligenceの真価が特に発揮される機能の一つと言えるでしょう。個人情報は非公開で、プライバシーに配慮した仕組みとなっており、広告のROAS(広告費用対効果)の改善に役立つ機能として注目されています。
※現在は米国・カナダを拠点とするShopify PlusのECサイトのみ利用できます。
利用における注意点とプライバシーへの配慮
Shopify Network Intelligenceを利用するにあたってはいくつかの重要な注意点があります。特に顧客データのプライバシー保護と、ECサイト運営者としての適切な情報開示が求められます。これらの点に留意し、透明性をもって運用することが、顧客からの信頼を得る上で不可欠です。
データの安全性とアクセス制限
Shopify Network Intelligenceでは、安全性とプライバシー保護に最大限の配慮がされており、自社のECサイトの顧客データが他のマーチャントに直接アクセスされることは一切ありません。
Shopifyはインフラや決済関連のセキュリティ性が非常に高いほか、GDPRなどの国際的なデータ保護法にも準拠しており、Shopify Data Processing Addendumでデータ処理の責任範囲が明確化されているため、企業としても安心して利用できる体制が整えられています。
Shopifyのセキュリティについてさらに詳しく知りたい方は、以下の資料もあわせてご参照ください。
オプトアウト(無効化)の選択肢
Shopify Network Intelligenceに自社のデータを活用されたくない場合、管理画面からいつでも機能の利用を無効化(オプトアウト)する選択肢が用意されています。オプトアウトを行うことで、Shopifyが自社のECサイトのデータを活用することを停止できます。
ただし、無効化した場合、ShopifyメールやShopify Search & Discoveryなど、上記で挙げたアプリやサービスが利用できなくなるため注意が必要です。
顧客へのプライバシーポリシーの明示
Shopify Network Intelligenceの利用にあたっては、顧客データがどのように使用されるかについて、プライバシーポリシー等で明確に説明しておくことが重要です。特に、データが匿名化されたうえでShopifyのネットワーク分析に利用される可能性がある点は、顧客が安心して購入できる環境を整えるためにも、適切に開示する必要があります。
具体的には、以下の点を満たした内容にしておきましょう。
- Shopifyの消費者向けプライバシーポリシーへのリンクを含めておく
- ECサイトがShopifyによってホストされていること、そしてShopifyが顧客の個人データを収集・処理していることを明示する
- 他のマーチャントやShopifyとの顧客のやり取りに基づくサービス(Enhanced Services)を提供するためのデータ処理が含まれることを説明する
- 顧客情報がShopifyおよび他の国に所在する可能性のある第三者と共有されることを伝える
- 顧客がShopifyによるデータ処理に対して、オプトアウトや異議申し立てを行う方法へのリンクを含める
ShopifyはGDPRや各国の法規制に準拠していますが、販売事業者としての説明責任も求められるため、自社のプライバシーポリシーに必要な記載を追加してください。アメリカ、EEA、英国、スイスに拠点のあるECサイトの場合、顧客の同意を得るための設定が必須となる場合もあります。
“自社データだけ”の限界を超える、集合型のECマーケティング
これまでのECマーケティングは、自社独占で得られる顧客データの活用が中心でしたが、どれだけ大手でシェアを握っていても、単独の企業で得られるデータ量には限界があり、いずれは成長がシュリンクしてしまいます。
業界全体の動きとして、グローバル規模での購買データを統合・分析し、より高度なパーソナライズや予測的なマーケティングを行う集合的な購買データ活用の時代へと進化しています。
Shopify Network Intelligenceはその代表例であり、膨大なトランザクションデータから導き出される集団的な傾向を味方につけることで、従来の“勘と経験”だけに頼らない、より精度の高い戦略立案が可能になります。
今後のEC競争において、自社データのみを頼りにする手法は徐々に限界を迎え、業界全体の知見を活かす仕組みがスタンダードとなっていくでしょう。
Shopify Network Intelligenceの活用でビジネスを加速させよう
これからのECビジネスにおいて、顧客データの活用は競争力の源泉となります。Shopify Network Intelligenceは、個々のビジネスでは得られない視点をもたらし、より的確な商品提案やマーケティング施策を可能にします。
もちろん、情報セキュリティやプライバシー保護への配慮は欠かせませんが、Shopifyはその点でも国際的な基準に則り、安心して使える環境が整えられています。
Shopifyを利用したECサイト構築から運用までサポートする「BiNDec」では、データ活用の重要性を強く認識しており、こうした機能を積極的に活用していくことが、EC事業の成長を加速させる鍵だと考えています。
顧客データの活用やECマーケティングに関してお悩みの方は、気軽にお問合せください。
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