ECプラットフォームのShopifyには「ストア分析」という機能があります。その中の一つである「顧客レポート」を利用すると、顧客に関する有用な情報を得ることができます。
そして、そんな顧客レポートのデータを生成AIに分析させれば、より深いインサイトを把握でき、売上アップにつながる戦略を立てられます。
この記事では、顧客レポートから得られるインサイトの概要と、外部の生成AIを利用した具体的なデータ分析手法、そして、顧客分析に有用なShopifyアプリをご紹介します。
顧客分析の目的とは?なぜ顧客分析が必要なのか
売上アップのためには、魅力的な商品を揃えたり、効果的なマーケティング施策を打つなどいくつかの手法があります。しかし、それらの対策も元を辿れば、顧客をよく知り、その要望に応えることから始まることに気づくことでしょう。
この意味で、顧客の特徴やニーズ、行動を明確に把握し、顧客を理解することは、ビジネスの維持や拡大に不可欠な要素であり、すべてのことが自社の顧客を如何に分析できるかにかかっているといっても過言ではないのです。
Shopifyには、顧客の購入商品や購入日、購入回数などの履歴情報が蓄積されており、それらの顧客情報を分析することで、自社の商品のメインターゲットがどのような属性や嗜好を持ち、どんな商品を求めているのかを明確にすることができます。ぜひ、こうしたデータを活用して顧客の特性を明らかにし、売上アップに役立ててください。
なお、ロイヤルカスタマーと優良顧客やリピーターとの違いなど詳しく解説している記事もありますので併せてご覧ください。
ECサイトの顧客分析におけるAIの有効性
生成AIの進化はめまぐるしく、さまざまな場面で活用が広がっています。それはECサイトを取り巻く環境でも同様です。ここでは、下記の3つの点から、ECサイトの顧客分析になぜ生成AIが求められているのかを解説します。
◼︎ECサイトの顧客分析に生成AIが求められる3つの観点
- 顧客の購買行動の変化
- 大量の顧客データの抽出
- データ分析の人材不足
顧客の購買行動の変化
インターネットの普及に伴いECサイト販売が一般化したことにより、顧客は無名のいち消費者ではなくなり、統計的に正確な分析を行うことができる対象へと変化しました。もちろんこれまでも、多くの企業で顧客分析は行われてきましたが、実店舗で現金支払いの顧客が中心だった時代には、粒度の粗い大まかな分析しかできなかったと言えます。
特に、2019年末から始まった新型コロナウイルス禍は消費者の購買行動の大きな節目となり、デジタル家電の場合、2022年の第3四半期に初めてECサイト販売の売上比率が4割を突破(※)したことがわかっています。
※実売データを毎日集計しているPOSデータベース「BCNランキング」による
新型コロナウイルス禍による生活様式の変化は顧客の購買行動に大きな影響を与え、2022年の時点でも(実店舗も併用する消費者を含め)ECサイトの利用者は、衣料品、本・雑誌、美容・化粧品では60%を超え、食品関係を除けば30弱〜40%を超える数字に達していました。
また、キャッシュレス化の浸透も、利用履歴が記録されるために顧客分析に貢献しています。支払い方法のデジタル化は、実店舗でも通販でも決済時の手間を低減して購買時の心理的な壁を取り除くとともに、消費者の購買行動の把握を容易なものにしたのです。
特に、ECサイトではその利便性からクレジットカード支払いが導入されてきましたが、実店舗でもより利便性の高いQRコード決済や、クレジットカードのタッチ決済が可能になったことで顧客データを正確に把握できるようになり、顧客分析への利用が推進されています。
日本では依然として現金の利用(ECでは銀行振込、代引き、コンビニ払いなど)も多いものの、すでにクレジットカード利用を好む割合のほうが上回り、QRコード決済も現金に迫る勢いを見せているのがわかります。
大量の顧客データからのインサイト抽出
検索エンジンやSNSの普及により、取得できる顧客データが飛躍的に増えました。購買行動がデジタル化されていなかった時代と比べ、チャネル別のアクセス流入などの分析が可能になるなど、効果的なデジタルマーケティング施策を打てるようになりましたが、その一方で、そうしたデータから有用なインサイトを抽出するにも時間や労力がかかることになったのです。
そこに登場してきたのが生成AIです。生成AIは、単に文章や画像、動画、音楽を生成できるだけでなく、大量のデータを分析してさまざまなインサイトを導き出す能力に優れており、その能力は顧客分析にも適しています。
生成AIを活用したECサイトの効率化については下記の記事をご覧ください。
データ分析の人材不足の解消
顧客データ自体が膨大なものとなり、かつ、さまざまな業種がデジタル化したことで連携も増え、顧客分析を必要とする分野が拡大しました。その結果起こったのが、データ分析担当の人材不足です。この点でも、生成AIの進化は渡りに船となりました。
Shopifyの顧客レポートから得られるインサイト
それでは、具体的にShopifyの顧客レポートから得られるインサイトを説明していきましょう。
顧客レポートは、Shopifyのダッシュボードの「ストア分析」の中にあります。「ストア分析」から「レポート」を選ぶと多数の項目が現れますが、顧客レポートに関連する項目は下記の7つです。
- 時間経過に伴う顧客数の変化
- 新規顧客とリピーターに対する販売比較
- ロケーション別の顧客分類
- リピーター
- 購入歴が1回のみの顧客
- 顧客コホート分析
- 顧客の潜在的な購買力の予測
※上位プランではカスタムレポートも利用可能
これらは、「カテゴリー」から「顧客管理」を選択することで絞り込まれて表示されます。ここからは、それぞれの概要と、そこから得られるインサイトを説明します。
1.時間経過に伴う顧客数の変化
ECサイトで注文した顧客数が表示され、指定した期間内に注文を行った新規顧客数と、同じくリピーター数を時間単位ごとに見ることができます。
これによって顧客数の推移を把握でき、顧客の増加や減少の傾向を分析することが可能となります。
2.新規顧客とリピーターに対する販売比較
新規顧客とリピーターが行なった注文の価格を示し、それぞれのグループの顧客によると注文した金額 (販売合計)を見ることができます。
これによって新規顧客とリピーターの購入行動を比較し、顧客ロイヤルティを高めるための戦略を立てやすくなります。
3.ロケーション別の顧客分類
新規顧客のデータが地理的なロケーション別に分類されて表示され、地域ごとに、以下の情報を確認できます。
- 選択した期間内に初めての注文を行った新規顧客数
- それらの新規顧客が初めての注文以降に行なった注文の合計数
- 税金、ディスカウント、配送、返金を含めて、顧客が費やした合計金額
これによって居住地や購入場所の違いによる顧客の購買行動の傾向を分析し、地域別にカスタマイズしたマーケティング戦略を立てることができます。
4.リピーター
注文履歴に2つ以上の注文が含まれているすべての顧客に関するデータが表示され、以下の詳細がわかります。
- 顧客名
- メールアドレス
- 直近の注文時にマーケティングを受け入れることに同意したかどうか
- 初回の注文の日付
- 直近の注文の日付
- 注文数の合計
- 税金、ディスカウント、配送、返金を含めて、顧客が費やした合計金額
これによってリピーターの購入頻度や購入金額を分析し、顧客ロイヤルティを高めるための戦略を立てやすくなります。
ちなみに、このリピーターのレポート画面で、「リピーターははいである」の設定を無効にすると、全顧客のデータを表示することができるようになります。この全顧客のデータをエクスポートすることで、外部の生成AIを利用した顧客分析が可能となります。ことのことを覚えておいてください。後ほど、その方法を解説します。
全顧客データをエクスポートすると、外部の生成AIでの顧客分析に利用できる、下記のようなCSVファイルが得られます。
5.購入歴が1回のみの顧客
注文履歴が1回だけのすべての顧客データが表示され、以下の詳細がわかります。
- 顧客名
- メールアドレス
- 直近の注文時にマーケティングを受け入れることに同意したかどうか
- 初回の注文の日付
- 注文数の合計(=1)
- 税金、ディスカウント、配送、返金を含めて、顧客が費やした合計金額
これによって購入歴が1回のみの顧客の特徴を分析し、リピーター化を促進するための戦略を立てることができます。
6.顧客コホート分析
コホートとは同じような特徴を持つ顧客のグループを意味し、顧客の獲得と維持に関する以下のような情報を見ることができます。ただし、ある特定の期間の情報を見る場合、その期間から72時間以上経過している必要があります。
- コホート分析の表
- 定着率の表
- コホート分析の詳細
これによってリピート購入をしている顧客や、一番大切にすべき顧客を判別することができ、リターゲティングの対象者やタイミングなどの判断材料となります。
7.顧客の潜在的な購買力の予測
選択したコホートに含まれる個々の顧客の購買力の予測値が表示され、以下の詳細を確認できます。
- 顧客名
- 予測される購入額の階層
- メール購読状況
- 顧客の前回の注文日
- 注文数の合計
- 税金、ディスカウント、配送、返金を含めて、顧客が費やした合計金額
これによって価値の高いコホートを構成する顧客がわかり、その購買力や購入意向を予測したターゲットマーケティングを実施しやすくなります。
なお、上位プランで利用できるカスタムレポートでは、プレミアムプランまたはShopify Plusへの加入が必要となりますが、Shopify利用開始時までさかのぼった過去のデータも含めて分析を行えたり、マーケティングキャンペーンの効果を各プラットフォーム別に分析するといったことが可能となります。
Shopify Plusについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
外部AI(ChatGPT)を活用した顧客データのさらなる分析
では、先ほどの「リピート」レポートを利用してエクスポートした全顧客のデータをChatGPTで分析し、優良顧客や離反手前客などを見分ける方法を説明します。
利用するのはRFM分析という分析手法で、これの活用によりLTVの向上を図ることが可能です。
LTVについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
RFM分析によるLTVの向上
RFM分析とは
RFMとは、Recency(直近購入時期)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)の頭文字をとった名称で、顧客の購買行動を分析するための指標を意味します。
RFM分析では、顧客をこれらの3つの要素に基づいてグループ分けすることで、各グループの性質に合わせたマーケティング施策を実行することが可能です。RFM分析の目的は、顧客の状況を可視化し、優良顧客とそれ以外を分けることで、効率的なマーケティングを実施することにあります。
RFM分析のメリット
RFM分析のメリットは、以下のようなものです。
顧客の属性に合わせたマーケティング施策の実施 | 顧客をグループ分けすることで、より顧客の求めるタイミングやニーズに合わせたマーケティング施策の実施が可能になる |
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マーケティング施策の無駄の排除 | グループごとにマーケティング施策を変えることで、効率化できる |
PDCAサイクルの実施 | 日々更新されるデータに合わせてマーケティング施策を調整していく必要があるため、必然的にPDCAサイクルが実施される |
RFM分析の具体的な方法
①R、F、Mそれぞれの表を作成する
最初に、全顧客データから、R、F、Mに着目して個別の表を作ってみます。
表計算ソフトでの作成ももちろんできますが、データ抽出のための数式を入れるなどの操作が必要になります。ChatGPTでは、自然言語のプロンプトのみで処理できてしまいます。
◼︎Recency(直近購入時期)の表を作成する
Rの場合には「最終購入日からの日数を10日ごとに区切り、それぞれの期間内に何人の顧客がいるかを表にしてください。」というプロンプトで作表できます。
なお、どのくらいの日数で区切るかは、商品の特性によって変わってきますので、自社の扱い品目に応じて適宜変更してください。
◼︎Frequency(購入頻度)の表を作成する
Fの場合には「オーダー頻度に基づき、昇順に顧客数を割り出して表にしてください。」というプロンプトで作表できます。
もし、余分なコラム(この場合には、Column 0)が生成されるようでしたら、「Column 0は不要です。」のように追加で指示することで調整できます。
◼︎Monetary(購入金額)の表を作成する
同様に、Mの場合には「購入の合計金額を5000円単位で区切り、20万円以上は1つにまとめて、それぞれのセクションに何人の顧客がいるかを表にしてください。」のようなプロンプトで作表できます。この場合にも、区切りとなる金額の単位は、商品の特性に応じて変更する必要があります。
②R、F、Mをグラフ化する
このようにして作られた3つの表を、グラフ化して並べてみました。
たとえば、Frequencyでは10〜20日前、40〜60日前、90〜100日前、130〜140日前のあたりにピークがあります。それらのタイミングで何があったのか(セール、値下げ、何らかのキャンペーンなど)を分析すれば、今後のマーケティング施策のヒントが得られるのです。
RFM分析を応用した顧客分類
そして、RFM分析を応用した顧客分類においても、生成AIの本領が発揮されます。表計算ソフトでは煩雑なマクロや数式が必要となりますが、ChatGPTでは自然言語で分類のルールを含むプロンプトで指示するだけで済むからです。ここではRとFに着目して以下のプロンプトを適用しましたが、必要に応じてMの要素も加えることも可能です。
なお、繰り返しになりますが、ルール内の頻度や期間の数値は、商品の特性によって変わってきますので、その点は注意してください。
各顧客を以下のルールに従って分類し、顧客のカテゴリーを列のラベルとして、各列に当てはまる顧客名を配した表を作ります。下記はプロンプトの例です。コピーして自身のお手元で試してみてください。
優良顧客:購入頻度が高く(例:6回以上)、最近(例:30日以内)も購入している顧客。
固定客:購入頻度が中程度(例:4-5回)、最近(例:30日以内)も購入している顧客。
リピート顧客:複数回購入(例:2-3回)し、最近(例:30日以内)も購入している顧客。
新規顧客:最近(例:30日以内)初めて購入した顧客(購入頻度が1回)。
離反手前客:購入頻度が高かった(例:10回以上)が、直近の購入がない(例:30日以上前)。
離反優良顧客:購入頻度が高かった (例:5-9回)が、ずっと(例:60日以上)購入がない顧客。
離反客:購入頻度が低く(例:2-4回)、ずっと(例:60日以上)購入がない顧客。
このような分類が行えると、たとえば、優良顧客には次回の購入時にお礼のサービスでサンプルを同梱したり、離反手前客にはクーポン付きのメールを送るなど、それぞれのカテゴリーの顧客に対してカスタマイズされたマーケティング施策を行えるようになるのです。
他にも、こちらでは自社のECサイト売上を最大化するCRM戦略を紹介しています。無料でダウンロードできますのでぜひ併せてご覧ください。
Shopifyの顧客分析に役立つアプリ2選
最後に、顧客分析に長けたShopifyアプリを2つ紹介します。
ECPower
1つ目は、「ECPower」という日本発のアプリです。
このアプリは、顧客管理における「細かすぎるCRM」ではなく、顧客を特定の属性や行動に基づいて分類する「顧客セグメント」に焦点を当てています。これにより、リピートマーケティングを効率的かつ効果的に実施することができます。
特徴的なのは、「この人」ではなく「こんな人たち」といったグループ単位での分析を行う点です。この手法により、顧客の行動やニーズの変化に柔軟に対応しやすくなるメリットがあります。
また、ECPowerでは特に「最も顧客数の多い商品」のレポートが重視されています。それは、商品販売数ベースではなく、顧客数ベースでの集計を行うことで、顧客セグメントが全体の傾向としてどのようなニーズや好みを持っているかの示唆を得ることができるためです。
この観点から、初回と2回目以降購入商品に基づいた顧客数を分析すると、リピート顧客に薦めるべき商品のインサイトが得られます。
また、初回購入時の商品によって顧客セグメントを捉え、そのセグメントの顧客が2回目に購入した商品を分析すれば、同じセグメントの新規顧客が初回に買った商品に応じて、プロモーションすべき商品が見えてきます。
同じく、そのセグメントの初回購入時の列には、その際に合わせ買いした商品が並んでいるので、メインとなる商品のページにそれらをお薦め商品として掲載すればコンバージョン率を高めやすくなるわけです。
Peel
2つ目は、英語のみのサポートなのが残念ですが、顧客維持とリピーター分析に特化した「Peel」というアプリです。RFM分析やコホート分析の機能も提供し、Slackとも連携できるので、組織内での情報共有にも役立ちます。
SNSなどを含むマルチチャネルマーケティングでは、各チャネルに対する投資に見合うリターンが得られているかが重要ですが、Peelを利用すると、どのチャネルの回収期間が短いかがひと目でわかり、顧客を維持するうえでの再投資時の資金配分などを決定する際の参考になります。
また、あらゆるSNS、オーガニック検索、電子メール、アフィリエイト、アーンド・オウンド・ペイドのトリプルメディアを網羅して、どのチャネルの経常収益、つまり繰り返し得られる収益が高いかをタイムラインに沿って表示することもでき、ビジネスにとって最も効果的なチャネルを簡単に特定することができます。
Shopifyの顧客レポートと生成AIで顧客分析を効率化
このようにShopifyの顧客レポート機能によるインサイトと、外部の生成AIやAIを応用したアプリを組み合わせることで、EC事業者は、物言わぬ顧客の嗜好を見抜き、購買行動を予測するようなことが可能になります。そして、そのようなデータ分析に基づく的確な予測が、売上のアップにつながっていくのです。
Shopify Plusパートナーとして豊富な経験と実績を持つBiNDecでは、ShopifyでのECサイト構築だけではなく、グロース支援も行っています。RFM分析をはじめとした、様々なデータ分析を用いたグロース施策のご提案や生成AIを活用したMAツールの導入支援など幅広いサポートで貴社の成長を後押し。課題解決から次のステップへの具体策までBiNDecがお手伝いします。