ECサイトが取り扱う商品の幅は広く、中には生活に密着した「食品」を扱うECサイトもあります。ですが、食品には賞味期限など特殊な条件もありますので、通常のモノを扱うECサイトとは、課題となるポイントも異なります。
この記事では、食品ECサイトの運営を検討している方向けに、成功のポイントや課題、食品をECで取り扱うメリットなどをご紹介します。食品ECサイトの立ち上げを検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
食品ECサイトとは食品を販売するサイト
「食品」と聞くと様々な食べられるものが浮かぶと思いますが、今回ご紹介する食品ECサイトは生鮮食品や加工食品、飲料など、食品関係を取り扱うECサイトのことです。
食品ECサイトの販売スタイル
食品ECサイトの販売スタイルは複数あります。一般的な食品ECサイトとしては、自社ECサイトやECモール(Amazonや楽天市場など)で、食品を販売するスタイルです。
また、実店舗であるスーパーマーケットが、インターネットから注文を受けて配送するスタイルもあります。その場合、商品は実店舗の在庫や物流センターから送るため、利用できるエリアは限定されます。ほかにも、食品の定期配送を行う宅配サービスもあり、サブスクリプションスタイルの食品ECサイトとして人気です。
食品ECサイトの市場規模とEC化率
では、食品ECの市場規模はどれくらいなのでしょう。経済産業省の「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」の調査結果によれば、2022年時点で、日本国内の一般消費者向けECの市場規模は22.7兆円で、「食品、飲料、酒類」の分野は2兆7,505億円(前年度比9.15%増)となっており、全体の約9%を占めていることがわかります。
ですが、「食品、飲料、酒類」の市場全体から見ると、EC化率は4.16%に留まっており、業界的にはEC化の波はそこまで高くはないと言えるでしょう。
◼︎物販系分野のBtoC-EC市場規模
分類 | 2021年 | 2022年 | ||
---|---|---|---|---|
市場規模(億円) ※下段 前年比 |
EC化率 | 市場規模(億円) ※下段 前年比 |
EC化率 | |
食品、飲料、酒類 | 25,199 (14.10%増) |
3.77% | 27,505 (9.15%増) |
4.16% |
生活家電、AV機器、PC・周辺機器等 | 24,584 (4.66%増) |
38.13% | 25,528 (3.84%増) |
42.01% |
書籍、映像・音楽ソフト | 17,518 (7.88%増) |
46.20% | 18,222 (4.02%増) |
52.16% |
化粧品、医薬品 | 8,552 (9.82%増) |
7.52% | 9,191 (7.48%増) |
8.24% |
生活雑貨、家具、インテリア | 22,752 (6.71%増) |
28.25% | 23,541 (3.47%増) |
29.59% |
衣類・服装雑貨等 | 24,279 (9.35%増) |
21.15% | 25,499 (5.02%増) |
21.56% |
自動車、自動二輪車、パーツ等 | 3,016 (8.33%増) |
3.86% | 3,183 (5.55%増) |
3.98% |
その他 | 6,964 (8.42%増) |
1.96% | 7,327 (5.22%増) |
1.89% |
合計 | 132,865 (8.61%増) |
8.78% | 139,997 (5.37%増) |
9.13% |
令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書 P.51 より引用
食品ECサイトが抱える課題
ではなぜ「食品、飲料、酒類」の市場全体でEC化が進まないのでしょうか。これには食品ECサイトが抱える下記のような課題が影響していると考えられます。
- 商品によっては営業許可や資格が必要
- 様々な法律に抵触しないように遵守する必要がある
- 生鮮食品は取り扱いが困難
- 値段やポイントサービスの有無を比較されてしまう
- 実店舗で購入する以上のメリット提供が可能か
まず、食品を販売するには営業許可や資格が必要です。例えば、自社で菓子を製造して売るのであれば、製造場所での施設について営業許可をとらなければなりません。営業許可の対象などは、地域や自治体や保健所によって異なる点にも注意が必要です。また、営業許可だけでなく、食品衛生責任者の資格も必要になります。
必ずしもすべての食品ECサイトに関係するものではありませんが、許可や資格以外にも取り扱う商品によっては、「食品表示法」「景品表示法」「計量法」「米トレーサビリティ法」など、守るべき法律あります。運営を始める前に関連する法律などがないかを確認してください。
実際に食品ECサイトを立ち上げたとしても、肉や魚介類となどの生鮮食品は鮮度を保った配送を行う必要がありますし、他にも整備しなければいけない点が多々あります。いくつかピックアップして詳しく解説します。
食品に限らずとも、ECサイト運営では気をつけたい課題が存在します。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
実店舗で購入する以上のメリットを利用者へ提供可能か
実店舗に行けば、顧客は欲しい商品を「その場で」、送料無しに手に入れることができます。
地域によりますが、大半の方は移動圏内にスーパーやコンビニエンスストアがあるでしょう。日常的な食材を取り扱う食品ECサイトの場合、どうしても配送までの時間と送料がかかります。スーパーマーケットがインターネットで注文を受ける食品ECサイトなら当日届くことも多いですが、どうしてもその点で実店舗に軍配が上がります。対応策としては、配送日時を顧客が細かく設定できる機能や、送料が無料になる一定金額の設定などが必要になるでしょう。
ただし、実店舗数が少ない場合には食品ECサイトを持つことは大いに有効でしょう。旅行先で購入した商品を再度購入したい場合に、実店舗に行かずともインターネットで購入できるのですから配送日数や送料以上のメリットを顧客に与えることができるはずです。
値段やポイントサービスの有無を比較されてしまう
値段やポイントサービスの有無を比較されてしまうことも、食品に限ったことではありませんが、ECサイトが抱える課題の一つです。実店舗であれば地理的な利便性から店舗ごとの価格差は購入店を決める大きな決定打になりませんが、食品ECサイトでは価格の比較をしやすいので、他店へ流れやすい部分もあります。同様に、ポイントサービスの有無などでも比較対象になるでしょう。
食品ECサイトで事業者が得られるメリット
ご紹介したように、食品ECサイトには、たくさんの課題がありますが、逆に食品ECサイトだからこそ実店舗なら困難なことが簡単にできることもあります。ここでは、食品ECサイトで事業者が得られるメリットをご紹介しましょう。
販路を全国に拡大できる
食品ECサイトならではの一番のメリットとも言えるのが、販路を全国に拡大できることです。
実店舗のデメリットは地理的な制約を受けることですが、食品ECサイトなら制約はありません。土地探しや賃料のコストをかけることなく、日本全国を市場として商品販売できるのは、事業者として望ましいメリットではないでしょうか。
24時間販売可能
24時間販売できることも、食品ECサイトならではのメリットです。実店舗であれば光熱費はもちろん、人件費をかけて営業しなければなりませんが、食品ECサイトならサーバーがダウンしない限りは自動で販売し続けることができます。
顧客の立場からしても、いつでも注文できる食品ECサイトは頼もしい限りなので、お店のファンになってくれる効果も期待できます。
棚が必要ないので商品数を増やせる
取り扱う商品数を簡単に増やせるメリットも、食品ECサイトの強みです。前述したエリア的、時間的制約以外にも、実店舗にはスペース的な制約があります。商品を売るためには棚に並べなければいけませんが、多くのニーズに対応するために大きい店舗にするのもコストに見合う売上があるかはわかりません。売れないかもしれない商品を置くのは機会損失に繋がります。
ですが、食品ECサイトであれば、インターネット上に写真1枚とテキストを載せるだけで、販売自体は可能なのです。
商品の魅力を伝えやすい
意外かもしれませんが、食品ECサイトには商品の魅力を伝えやすいというメリットがあります。実店舗で商品を紹介する場合、スタッフ全員が同じように提案できるとは限りません。また、顧客としてもスタッフに話しかけられるのが嫌いな人もいます。
その点、食品ECサイトであれば、商品ページに魅力を伝える詳細なテキストを記載しやすいですし、顧客からしても気楽に読むことができます。
また、企画記事などのページを設けることで、時期やテーマに沿った商品の魅力をアピールすることも可能でしょう。
魅力を伝えるために欠かせない、商品説明のコツをまとめた記事もぜひ併せてご覧ください。
持ち帰りにくい商品も自宅まで配送される
食品に限らずですが、利用者にとってECサイトのメリットのひとつが配送してくれることです。これにより、顧客はどれほどの数でも、どれほど重い物でも、持ち帰りを気にせず購入することができます。
特に、食品ECサイトの商品は商品単価が安いものがありますが、大量に購入してもらうことで売上増加が見込めます。
食品ECサイトで成功するためのポイント
ここでは、食品ECサイトで成功のために、押さえておきたいポイントをご紹介します。
味や食感の想像を掻き立てる商品説明
食品ECサイトでは実店舗のように、実際に商品を手に取ってみることはできません。ですが、食品ECサイトであれば味や食感の想像を掻き立てる商品説明を、取り扱う全商品にできるのです。
例えばShopifyというECプラットフォームでは、「Shopify Magic」といった、ShopifyがECに特化して開発した生成AI機能を提供しています。このツールでベースになる商品説明のテキストを作り、それをリライトして仕上げる方法もあります。
他にも、AIを活用して改善できるEC作業は多くあります、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
3温度帯の管理・配送
食品は温度帯によって適切に扱うことが必要不可欠であり、下記表の3温度帯(冷凍、冷蔵、常温)の管理と配送が食品ECの鍵となります。
冷凍 (-18℃以下) | 冷凍食品など |
---|---|
冷蔵 (0~5℃) | 生鮮食品や乳製品など |
常温 (15~25℃) | 乾物や缶詰、常温保存可能な食品など |
各温度帯専用の倉庫や冷蔵庫を用意し、温度管理を徹底するようにしましょう。可能であれば、温度管理のモニタリングシステムを導入し、異常があればすぐに対応できる体制を整えると良いです。また、配送に関しても、適切な温度管理ができる業者の選定が必須であり、いくつかの温度帯の商品を同時に取り扱うのであれば、送料もそれらを加味して設定する必要があります。
シズル感のある商品写真
商品説明とともに、食品ECサイトで大切なのはシズル感のある商品写真です。食品は口に入れるものですから、視覚的に「美味しい」と思わせるような画像が有利です。そこで、ライティングや背景、食器などにこだわって撮影し、シズル感のある写真を掲載しましょう。
ですが、あまりにも現実と異なる写真を掲載すると、あとでトラブルになりかねませんので、ご注意ください。
シーズン需要への対応
母の日や父の日、お中元やお歳暮といった、シーズンギフトにあわせて商品をセレクトし、顧客へ提案するのも食品ECサイトが成功するポイントのひとつです。
顧客の中には明確なプランがなく「何を送ればよいか」と悩みながら来訪しているケースもあるでしょう。そこでオススメの商品を詰め合わせた「ギフトBOX」などを紹介すれば、顧客の心をつかめるかもしれません。
賞味期限や保存方法の表示
食品ECサイトでは顧客が商品を手にとって見れない以上、賞味期限や保存方法の表示は商品説明欄などで正しく掲載するべきでしょう。
賞味期限によっては顧客のニーズに合わないケースもあるでしょうし、保存場所がないという可能性もあります。ですから、顧客の立場に立って、必要と思われる情報は必ず記載しましょう。
希少性の高い商品を取り扱う
食品ECサイトでは、棚の制限がないことを利用し、ほかでは手に入りにくい珍しい商品を取り扱うのもポイントです。特定地域でしか販売されていないような名産品や特産品などを販売することで、ほかのECサイトと差別化を図れます。
ポイントサービスやメルマガの配信でリピーターを狙う
食品ECサイトに限ったことではありませんが、顧客の囲い込みとしてポイントサービスなどをするのも良いでしょう。また、メールマガジンなどを発行し、セールやキャンペーン情報などを送ることで、リピーターになってもらう方法もあります。
ポイント機能について詳しくはこちらの記事もご覧ください。
食品ECサイトにおすすめの機能やShopifyアプリ
食品ECサイトを運営するならぜひ知っておきたい機能や、Shopifyをご利用ならおすすめしたいアプリがあります。これらを活用することで、効率よく運営業務を進めていきましょう。
定期購買(サブスクリプション)
例えば、健康食品や宅食など、一定期間ごとに同じ商品を継続購入する顧客の多い商品を取り扱うのであれば、サブスクリプションサービスの導入が効果的でしょう。ある程度は毎月決まった額を計上できるため、売上の向上や安定を図ることが可能です。
導入には、定期購買機能を持つカートシステムを選択するといいでしょう。
Shopifyでの定期購買について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
配送日時指定
パーティーやギフトの需要であれば、特定の日までに受け取りたいという顧客の希望があるでしょう。
また、食品には、賞味期限や、先ほど説明した3温度帯のように冷蔵や冷凍など温度を保つ必要がある商品があります。その場合、顧客が自宅にいない時間の配送では受け渡しができず、顧客もドライバーも困る事態になるため、そういった商品を扱う食品ECサイトには、必要なタイミングで届けられる機能が求められます。
例えば、Shopifyの場合、標準では配送日時指定機能がありませんが、BiNDecのアプリ「BiNDec|配送日時指定」を使えば設定が可能です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ギフトラッピング
お酒やコーヒーなどの飲料、お菓子など、食品は相手の好みに左右されにくいのでプレゼントして最適です。
ですが、お中元やお歳暮などを送る場合は、ダンボールに詰めて送られるのではなく、ギフト用にラッピングされた上で梱包していないと意味がありません。ですから、ギフトラッピングの有無などを設定できる機能やアプリを導入するべきでしょう。
例えば、Shopifyの場合、BiNDecの「BiNDec|ギフトラッピング」を使えば、日本独特の習慣である熨斗や、リボンやメッセージカードといったラッピングの種類を選択してもらうことも可能です。有料のラッピングを用意しておけば、単価アップも狙えます。
各種アプリについてはこちらのページも併せてご覧ください。
食品ECサイトの成功事例
それでは、実際に成功した食品ECサイトの事例を見ていきましょう。同じ食材でなくても、参考になるアイデアがあると思います。
事例1 一保堂茶舗
創業1717年(享保2年)の一保堂茶舗は、名前の通り「お茶」を専門に扱うお店です。「お茶の時間は日々の暮らしをより豊かにしてくれます」という思いから、全国100ヵ所以上で新鮮なお茶が購入可能です。
その一保堂茶舗の特徴としては、サイト内を見るだけで実店舗にいるような「お茶」についての知識を得られることです。例えば「レシピ早見帖」では、「淹れ方で探す」「茶葉から探す」など、自分が欲しいと思う商品を探しやすくなっています。
また、トップページでは、人気の商品やオススメの商品などがわかるようになっており、実店舗を訪れた時にスタッフから語りかけてくるような印象を持つことができます。デザインからも、お茶を飲んでホッと一息ついた気分になれるECサイトに仕上がっています。
事例2 SAKE+
SAKE+(サケプラス)も、名前が示すとおり「お酒」を取り扱う食品ECサイトです。
トップページがとても特徴的で、グローバルナビゲーションの最初が「ギフト」になっています。つまり、SAKE+は、大切な人にお酒をギフトとして送る方をペルソナにして、サイト設計をしていることがわかります。
そのため、「楽しみ方」というメニューでは、いくつかタグが設定されており「#ハレの日やお祝いに」「#ペアリング」など、プレゼントを意識したお酒の楽しみ方を提案しています。
また、SAKE+は「蔵本紹介」のページを持っており、「お酒」に対して真摯に向き合っているECサイトであることをアピールしているのも効果的でしょう。
お酒のECサイトはライバルも多いので、価格面で勝負するのではなく、イメージ戦略で成功をつかんだと言えるのではないでしょうか。
食品ECサイトの構築、運用は知見のあるパートナーと共に
やはり全国、そして国境を超えてECサイト一つで世界へ販売できる点など、実店舗にはない多くのメリットがあるのも食品ECサイト運営の魅力です。
ただし、ご紹介したように、食品ECサイトにはさまざまな課題があります。しかし、導入する機能やサービス内容次第で成功の可能性は大いに高まります。そのためにも、競合他社のECサイト研究を行ったり、慎重かつ確実に運営プランを立てなければいけません。
なお、上記で紹介した2つはShopify PlusパートナーであるBiNDecによって制作されました。BiNDecはShopify公認のShopify Plus パートナーであり、これまで350以上のECサイトの構築経験があります。豊富な知識で、Shopifyの食品ECサイト構築と運用をバックアップします。ぜひお気軽にご相談ください。
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