EC運営には、商品の在庫や売上の管理だけではなくECサイトの分析も必須の業務です。正しい定期的な数字の分析があってこそ、改善点やさらに伸ばしたい点などを洗い出すことができ、ECサイトの改善、売上アップにつながります。
今回は「サイト分析」をテーマに、ECサイトの売上アップに向けてやるべきことから、分析のポイント、用語解説、そして実際の分析の代表例として世界最大シェアのECプラットフォームShopify(ショッピファイ)の「ストア分析」機能の活用法までご紹介していきます。
ECサイト分析の4つのステップ
分析というと、特別なツールを使うことをイメージする方もいるかと思いますが、その前に、まずはどのように分析するのかを決めてから実際の数字を見ていきます。下記の4つのステップについて詳しく説明します。
- ECサイトを「どうしていきたいのか」を決めて、仮説を立てる
- 仮説の検証をするための指標を決める
- 必要なデータを取得する
- 分析して、改善施策を立案する
1. ECサイトを「どうしていきたいのか」を決めて、仮説を立てる
ECサイトの場合、多くは「売上アップ」が最終目的ですが、「そのために何をすればいいか」という観点で深堀りして考えます。たとえば以下のような形で、自社のECサイトの状況に合わせて具体的にどうしたいのかを決めておきます。
- 認知度を上げたい(アクセス数を増やしたい)
- 注力している商品の購入数を増やしたい
- 商品詳細ページからの購入率を上げたい
- 特定の属性からの購入を増やしたい(性別、年齢、地域などを絞る)
「どうしていきたいか」を決めたら、「課題が発生する要因」の仮説を立てます。これは感覚的なものでもかまいません。これまでの売上状況や、直感的に感じていることから仮説を立ててOKです。たとえば以下のように考えます。
どうしていきたいか | 「課題が発生する要因」の仮説 |
---|---|
アクセス数を増やしたい | ▶︎検索からの流入が少ないのでは? |
注力している商品の購入数が少ない | ▶︎注力商品の詳細ページへのアクセスが少ないのでは? |
商品詳細ページのアクセスから購入に達する率が低い | ▶︎詳細ページからカートへ誘導できていないのでは? |
女性の購入率が低い | ▶︎商品の訴求が女性に響いていないのでは? |
2. 仮説の検証をするための指標を決める
分析ツールで見ることができる指標は非常に多くあります。やみくもに全部を見ようとすると無駄に労力がかかってしまいますので、見る項目を絞っておく必要があります。あらかじめ決めておいた仮説をもとに、たとえば以下のように見るべき指標を想定します。
あくまでも仮説なので、正しいとは限りません。この検証をするのが分析の目的になります。
「課題が発生する要因」の仮説 | 見るべき指標の想定 |
---|---|
検索からの流入が少ないのでは? | ▶︎検索エンジン経由のPV数、ユーザー数 |
注力商品の詳細ページへのアクセスが少ないのでは? | ▶︎特定の商品の詳細ページのアクセス数、流入経路(どのページからのアクセスか) |
詳細ページから購入へ誘導できていないのでは? | ▶︎商品詳細ページからカートに入れた率 |
商品の訴求が女性に響いていないのでは? | ▶︎購入者の男女比、男女別のカゴ落ち率 |
3. 必要なデータを取得する
指標を決めたら、ツールを使ってデータを取得します。以下のポイントを踏まえて取得するとよいでしょう。
期間を決める
ECサイトの状況に応じて、2週間、1ヶ月、3ヶ月、1年、といった期間を決めて、分析するタイミングを揃えます。
比較する
期間の比較であれば、前の期間と比べて現在がどうなっているか、増減の状態を見ます。また、PCとスマホでのアクセスの割合や、リピートと新規の購入状況など、属性での比較も課題の洗い出しに有効です。
傾向を見る
設定した期間での数字の変化を見ると、特定の条件が揃ったときに購入されていたり、特定の日に突然アクセスが増えている、といった傾向が見えます。これを活かすと、ECサイトの改善に役立てることができます。
4. 分析して、改善施策を立案する
数字が揃ったら現状のデータを分析します。
分析をしたら、「その数字を改善するためにはどうしたらいいか」という視点で改善施策を立てます。たとえば以下のような施策が考えられます。
見るべき数字 | 改善施策 |
---|---|
検索エンジン経由のPV数をアップ | ▶︎SEO対策を行う、入口としてのページ(ブログ記事など)を増やすなど |
注力商品へのアクセス数アップ | ▶︎トップページにバナーを貼る、商品単体のキャンペーンを実施するなど |
カートに入れる率をアップ | ▶︎ボタンのデザイン調整、商品の訴求内容の調整など |
目的別の分析のポイントについては以下でも解説していますので、こちらも併せてご覧ください。
ECサイトで見ておくべき指標
ECサイトの売上アップのために見ておく代表的な指標について紹介します。一般的にはこれらの指標の中から、KGI、KPIを設定していきます。KGI、KPIをより詳しく知りたい方は、こちらも参考にしてください。
売上額に影響する指標
売上高
ECサイトの売上の総額です。ECサイトでは最終目標として設定されることが多い数字です。
売上件数(コンバージョン数)
商品が購入された件数です。ECサイトの場合は購入=コンバージョン(CV)としてカウントします。
コンバージョン率(コンバージョン数÷総アクセス数)
サイト全体のアクセスの中で購入した割合を示した数字です。
顧客単価
一人の顧客あたりの購入額です。複数商品の購入、リピート購入も含めた単価になります。
ユーザー行動を見る指標
アクセス数(PV数、ユーザー数)
アクセス数は、「ページが見られた回数(PV数)」と「訪問したユーザーの数」とに分かれます。たとえば一人のユーザーが2ページ見るとPV数は「2」とカウントされますが、ユーザーの数は「1」となります。
ユーザー属性(デバイス、ブラウザなど)ごとのアクセス数
アクセスしたユーザーの環境などの属性に応じたアクセス数です。
リピート率
すべての顧客のうち、複数回購入した顧客の割合です。
カゴ落ち率
商品をカートに入れた回数のうち、購入に至らず離脱した割合です。
ページ遷移
サイト内でのページの閲覧の流れです。購入に至るまでどういうページを経由したかを見ます。
流入元
サイトにアクセスするきっかけとなったものです。検索エンジン、広告、メール、SNS、他のウェブサイトなど、さまざまな流入元が考えられます。
滞在時間
サイトやページにアクセスしていた時間です。アクセス数があっても滞在時間が数秒であれば、ほとんど中身は見られていないと言えます。
スクロール率
ページ全体の長さを100%としてどこまでスクロールされたかの割合です。
広告の費用対効果に関連する指標
広告からの購入数、売上総額
広告からの流入をきっかけにして購入まで至った数(コンバージョン数)と、購入総額です。広告の効果を把握するための指標になります。
広告のクリック単価、CVR、CPA
広告の1クリックあたりにかかった金額、広告をきっかけに購入に至った割合(CVR:Conversion Rate)、一人の顧客獲得にかかった費用(Cost Per Action)です。広告の費用を把握するための指標です。
指標を分解して、見るべき数字を判断
それぞでの指標はいろいろな指標のかけ合わせで算出できるため、分解して考えると見るべき数値がはっきりします。たとえば、売上高は以下のようなパターンが考えられます。それぞれの計算式の中の指標のどれを伸ばせば売上高を上げられるか、という視点で考えます。
- 売上高=訪問者数✕コンバージョン率✕顧客単価
- 売上高=購入件数✕購入単価
- 売上高=顧客数✕購入頻度✕購入単価
ECサイトの分析・施策のポイント
多数の施策を一度に行うと効果の検証がしづらくなるため、段階を踏んで施策を実施していきます。以下のポイントを踏まえて分析と施策の優先順位を決めるとよいでしょう。
数字が最終目標に近いものから改善
最重要目標からできるだけ近いところの数字を優先して分析し、施策を決めます。たとえば売上アップが目標であれば、コンバージョン率の向上に直接関係する施策から先に行っていきます。コンバージョン=商品購入とした場合は、その直前のユーザー行動として以下のような施策が考えられます。
- 購入ボタンのデザイン、配置、大きさの調整をして遷移しやすくする
- 決済方法の選択肢を増やして、さまざまなニーズに対応する
- 購入時の入力項目を減らす、選択を簡単にするなど、フローを簡素化してハードルを下げる
数字の変化のインパクトが大きいものから対策
改善によって得られる効果の大きさを優先します。例えばかご落ち率が高い場合、チェックアウトまでのフローの簡素化を行うと数字に大きな変化が出る可能性があります。
実施のハードルが低いものから着手
改善策を実施するために必要な時間や手間を踏まえて施策を決めます。簡単に実施できる改善(例:文章の改善や、ボタンの色の変更など)は、すぐに取り組めるので実施のハードルが低くなります。
繰り返し実施して課題点をさらに見ていく
施策は一度実施したら終わりではなく、繰り返し実施して見ていくことも大切です。何度か実施することで新たな課題点が見えてくることも多くあります。
ECサイト分析で使われるツール
では、いよいよツールについて知っていきましょう。ECサイトの分析は以下のような分析ツールを組み合わせて行います。ツールによって得意分野が異なりますので、目的や指標に合わせて使い分けましょう。
Google Analytics4(GA4):アクセス状況を細かく分析
Googleが提供している、世界で最も利用されているサイト分析ツールです。ウェブサイトへのアクセス状況全般を得意とします。「カスタムイベント」を設定することで特定の場所をクリックした回数などの計測を行うことができます。
たとえば、特に注力している商品のバナーや、キャンペーンへの導線をサイトのトップページに設置している場合、そのバナーのクリック回数を計測しておくことで、施策の有効性を数字で把握することができます。
ShopifyとのGA4連携方法については以下の記事で詳しく紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。
Googleサーチコンソール:流入前の動きを把握
Googleが提供している、検索エンジンでの状況を見ることができるツールです。検索キーワードごとの順位など、サーチコンソールでしか知ることのできない指標もあるため、SEO対策を検討するのに有効です。
検索キーワードは、顧客が求めているニーズに直結します。自社サイトのページが高い順位で表示されている場合は、そのニーズを満たす形でサイトの内容を作り込むことで、顧客の需要をカバーできるでしょう。
ECサイトのSEO対策について、こちらの記事で詳しく紹介していますので併せてご覧ください。
ヒートマップツール:ユーザーの動きを可視化
サイト内のページの中でよく見られている場所、クリックが多くされている場所、どこまでスクロールされているか、といったユーザーの動きを色の違いで可視化できるツールです。ページの構成やUIなどの検討に役立ちます。
Microsoftが提供している「Clarity」は、無料で利用できるヒートマップツールとして広く知られています。
配信広告の結果:広告の費用対効果を把握
ECサイトの売上アップの施策として、リスティング広告、ショッピング広告、SNS広告などの展開を行うことも多くあります。それぞれの広告配信システムの管理画面で数字を把握しながら、アクセス状況や売上の確認を行い、費用対効果を見ることも大切です。
管理画面上では、以下のような数字をリアルタイムで把握することができます。
- パフォーマンス:表示回数、クリック数、クリック率
- 広告の費用:期間内の全体費用、1クリックあたりの単価
- コンバージョン関連:コンバージョン数、コンバージョン率、コンバージョン単価
- その他:検索キーワード、エンゲージメント数(率)など(広告の種別によって異なる)
Shopifyとの連携メリットも多いGoogle広告について詳しく解説した記事もありますので、併せてご覧ください。
Shopify「ストア分析」機能:顧客情報を含めた分析
Shopifyに標準搭載されている機能で、管理しているECサイトのアクセス状況などを詳しく見ることができます。カテゴリーごとに「レポート」が細かく用意されています。Shopify内の機能なので顧客情報を分析できるところが強みです。この後で詳細を解説しましょう。
Shopifyのストア分析機能の強み
ここからは、Shopifyのストア分析機能についてもう少し詳しく見ていきます。
多数のレポートがあらかじめ用意されている
ECサイト全体のパフォーマンスを一目で確認できるダッシュボードの他に、売上、注文、製品、顧客、マーケティングといったジャンルごとに60種類以上のさまざまなレポートがあらかじめ用意されています。
顧客情報が詳細に分析できる
Shopifyでの実際の購入情報を利用したレポートが確認できます。以下のような細かな分析が可能です。
顧客サマリーレポート | 新規顧客とリピーターの比率、顧客の平均注文額、平均注文頻度を表示できる |
---|---|
顧客セグメントレポート | 顧客を特定の基準(例: 購入回数、地域、購入額)でセグメント化し、それぞれのセグメントのパフォーマンスを分析できる |
顧客の成長レポート | 一定期間内に取得した新規顧客の数や、リピーターの増加を追跡することができる |
自分の見たい情報を組み合わせたレポートが作れる
プレミアムプラン以上の契約では、標準のレポートに加えて、特定の指標に基づいた独自のレポートを作成することができます。ニーズに合った細かい分析が可能です。
データの絞り込み
たとえば、特定の期間中に購入した顧客だけを対象にしたレポートや、特定の地域からの注文を表示するレポートなどを作成できます。
データのセグメンテーション
顧客や売上データをさまざまな基準(例:地理的な場所、購入履歴、顧客属性)でセグメント化し、それぞれのセグメントに特化した分析を行うことができます。
指標とディメンションを自由に設定
レポートに表示する指標(例:売上高、注文数、コンバージョン率など)やディメンション(例:日付、製品カテゴリ、支払い方法など)を自由に追加したり削除したりすることができます。
なお、先ほど「プレミアムプラン以上」とお伝えしましたが、Shopifyには5つのプランがあります。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
リアルタイムで細かな数字が見られる
レポートはリアルタイムで更新されるため、「今」の状態をすぐに把握できます。「ライブビュー」では、ECサイトの今の動きがグラフィカルに反映されます。たとえば大規模なキャンペーンの実施直後や、取引が多い時期など、状況をリアルタイムで見たいときにうれしい機能です。
アプリと連携すればさらに便利に
Shopifyでは、インストールすることでECサイトの機能を拡張することができるアプリが多数公開されています。アプリを連携させるとスムーズに改善アクションが実施できるものが多数あります。
例えば、BiNDecが提供している「BiNDec|レポート」は、Shopifyで集計したレポートを定期的にメールやSlackなどのツールに配信できるアプリです。都度都度Shopifyの画面を見に行かなくてもレポートを確認することができ、施策の判断や実行をチーム内でスムーズに共有することができるため、迅速な問題検知などECサイトの改善アクションのきっかけを生み出すことができます。
BiNDecのShopifyアプリについて詳しく知りたい方はこちらのページをご覧ください。
Shopifyの「顧客レポート」の優れた顧客分析機能
Shopifyに標準搭載されている「顧客レポート」は、顧客に関する数字をあらゆる視点から確認することができます。Shopifyならではの以下のレポートが揃っています。
時間の経過によるお客様数の変化
選択した期間中に注文した新しい顧客やリピーターの数の変化を把握できます。購入時期の傾向を把握することで、キャンペーンなどの施策タイミングの検討に役立ちます。
新規のお客様とリピーターへの販売の比較
初回顧客とリピーター顧客の注文額を時間帯や日、週、月などで比較したデータを見ることができます。新規/リピーターの購入の傾向を掴むことで、訴求内容の検討に約立ちます。
ロケーション別のお客様
顧客のロケーション別に、指定した期間内の初注文者、その後の注文数、消費総額などの注文データを表示します。特に海外向けのECサイトを運営している場合、ロケーション(国)別の施策を検討するのに役立ちます。
リピーター
注文履歴に2件以上の注文がある顧客データを集計して表示します。同じECサイトで2回以上購入しているということは、ECサイト自体に関心がある現れと言えます。メルマガなど、ECサイト本体以外での商品訴求の施策などが検討できます。
一度限り訪問したお客様
1件のみ注文がある顧客データを集計して表示します。1度購入した顧客をリピーターにするための施策の検討に役立ちます。購入実績がある=商品への一定の評価を得ていると言えます。購入した商品内容に応じた関連商品の訴求や、消耗品の場合は購入しそうな時期を狙った個別の施策も有効になります。
お客様のコホート分析
同様の特徴を持つ顧客グループ(コホート)の分析データを表示します。リピーターや重要顧客を判断することができます。
たとえば「商品Aの購入数」という条件で絞り込み、初回購入からどのくらいの期間でリピートしているかを知ることで、次にこの商品をいつ訴求すべきかを判断することが可能になります。
予測される購入額の階層
これまでの数字をもとに、各コホートにおける顧客の予測購入額を表示します。この数字をもとに、誰にどんな施策を打っていくかを検討できます。
たとえば、「予測される購入額の階層」が「高」(購入額が高い)の場合、購入する数や頻度が高いことが想定されますので、この層をターゲットにしたボリュームディスカウントのキャンペーンを実施することも有効な施策になります。
ECサイトの成長には、分析と施策の繰り返しが必須
ここまで、ECサイトの分析機能の重要性と、Shopifyのストア分析機能の特徴や強みをご紹介してきました。ECサイトは、成長段階に応じてとるべき施策が異なってきます。分析がしっかりできても、判断を誤ると成長が止まってしまったり、逆に売上が落ちてしまうということにもなりかねません。プロのアドバイスを取り入れることで、スムーズなPDCAの実行を促進させるのもひとつです。
ShopifyでのEC構築と運用支援をワンストップでサポートするBiNDecでは、ECの成長戦略も支援しています。ECサイトの分析から課題を可視化し、ECを成長へ導きます。ぜひお気軽にご相談ください。
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